犬や猫の関節炎が起こる原因とは?治療法と予防法、ケアについてのポイントを解説します2024.12.27
愛犬や愛猫の様子に「あまり歩かなくなった」「なんだか歩きづらそう」といった症状はありませんか?
もしかしたら、関節炎を発症しているかもしれません。
関節炎は関節に炎症が起こって徐々に痛みが慢性化し、次第に関節変形することでさらに動かしづらくなる病気です。中年齢のワンちゃんや猫ちゃんでごく一般的で、高齢になるに従い多く見られるため、「年齢的なもの」と様子見しがちですが、その背景で犬や猫は日々痛みで苦しんでいるかもしれません。
「痛い」と口に出して言えない愛犬や愛猫のため、高齢になったら少しでも早めに対応することが大事です。
寒さが関節にも影響を与えだす冬の時期。
今回は、関節炎について原因や治療方などを詳しくお伝えしていきます。
犬と猫の関節炎はなぜ起きる?原因や症状をご紹介
まずは、関節炎の原因や症状について見ていきましょう。
関節炎はどんな病気?
関節は、いくつもの“骨”が接合している箇所のことです。正常な状態の関節は、動きを滑らかに保つためのクッション材のような“軟骨”、そしてスムーズな動きのために適切な量の“関節液”が存在しています。
しかし、関節の疾患が起こると、通常はクッション材の役割を果たしている軟骨表面が摩耗し“つるつる”が失われ、削れたような表面に。スムーズな動きができずに、きしみが感じられるようになります。炎症が起こることで関節液も増え、関節が腫れることもあります。
犬と猫の関節炎が起きる原因は?
次に関節炎が起こる原因についてご紹介していきます。
肥満
関節は体重を支える部分ですが、肥満になると関節に大きな負荷がかかった状態になります。それが原因で関節炎を起こすケースも多いです。動いているときはもちろんのこと、「寝ているとき・休んでいるとき」など動きが伴わないときも関節への負荷が大きい状態ですので注意が必要です。
高齢になったため
私たち人間も同じですが、高齢になるほどに関節炎を起こしやすくなります。
年齢が上がるにつれ、関節への負担が長く蓄積されている状態です。さらに、関節を構成している軟骨組織がすり減ってきます。長年の負担が現れやすくなることから、関節炎を起こすのは高齢の犬や猫に多い傾向です。10歳以上の高齢犬の半数近く、12歳以上の高齢猫の7割以上が変形性関節症や変形性脊椎症に罹患しているということがわかっています。
「高齢だから仕方がない」という理由で放置すると、どんどん状態が悪くなることもあるので注意しましょう。高齢だからこそ、早めの受診・治療が重要です。
病気の進行に伴って起こる
関節や骨格系の疾患を患っていることで、関節に負担や障害が生じた結果、関節炎になることも多くあります。特に膝蓋骨脱臼(パテラ)、前十字靭帯断裂や、股関節形成不全などの疾患は、慢性膝関節や慢性股関節炎を起こすことが珍しくありません。根本の病気を治療することで関節炎を食い止めることが可能ですが、関節炎が慢性化してしまうと、元に戻すことはできません。
運動不足が原因
運動をあまりしない犬や猫が「運動不足」により関節が弱くなってくることがあります。
特に、高齢になって運動不足になる犬や猫も多いですが、「同じ姿勢でずっと寝ている・座っている」といった場合に関節にずっと負担がかかっていることもあります。
運動し過ぎで関節に負荷が大きい
運動量が多いと関節への負担が増え、関節炎の発症リスクも高くなります。
長時間の散歩が必要な犬種や、日常的にドッグランなどで「走る・ジャンプする」といった激しい動きをする犬など、比較的運動量が多い活動をしている犬猫も関節炎が起こりやすいです。
生活環境が関節炎を起こしやすい
飼育環境は飼主様ごとに異なりますが、関節炎を起こしやすい生活環境もあります。
たとえば「滑りやすいフローリング」の場合、滑りにくい床材と比べると普通に歩くだけでも関節に負荷がかかります。
また、階段を自由に昇り降りできる場合、階段を使わない犬や猫と比べて関節への負担が増すことになるでしょう。
室内で犬や猫を飼っているとソファーやベッドにジャンプして上がろうとすることも多いですが、これも関節が起こりやすくなる環境となっています。
関節炎が起きたとき、どんな症状を見せる?
関節炎を起こしている犬や猫は、さまざまな症状を見せますが、動物は本能的に痛みの徴候を隠す性質がありますので、初期は症状を示さないこともよくあります。
・足を引きずる、かばうように歩く
・歩きがとても遅い(ゆっくりになった)
・寝ている状態から立ち上がるときに時間がかかっている(辛そうに見える)
・走らない
・散歩に行くのを抵抗する(行っても途中で座る)
・歩くときにヨボヨボした印象になる
・動きが全体的に鈍い
・抱っこを拒否する
・足を触ると声を出して鳴く
・何も症状を示さないこともある
犬種によっては関節炎にかかりやすい
犬の場合、関節炎のリスクが高い犬種もいます。
たとえば、
・ゴールデンレトリバー
・ラブラドールレトリバー
・ジャーマンシェパード
・セントバーナード
・バーニーズマウンテン
など、体の大きな犬種の方が関節炎を発症するケースが多く見られます。
また、一方でチワワやトイプードル、ミニチュアダックス、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャーテリアなどの小型犬に多く見られる「パテラ」という膝の脱臼の関節疾患もあります。
パテラとは、膝にある“お皿”が外れる病気で、
・1本の足を浮かせてスキップするように歩く
・ジャンプを嫌がる
・足を気にする
・痛がる
といった症状がよく見られます。
猫の関節炎は加齢のケースが多い
犬と違って散歩が日常的ではない猫の場合、年齢とともに活動量が落ちてきても「シニアになったからかな」と思い込んでしまうケースが多いかもしれません。
ある程度の年齢になった猫は関節炎を発症しているというデータもあり、「ジャンプをしない」「高いところに上らない」「ほとんど寝ている」といった、一見“老化現象”と思えるものも実は関節炎が原因で起こっている症状のケースもあります。
そもそもゆっくり動くため、「跛行」にもあまり気づかない飼主様もいるでしょう。
犬と猫の関節炎の診療と検査方法
関節炎の検査についてご紹介します。
問診・視触診
初めに確認するのは、飼主様から聞く家での様子です。「いつから・どんな症状が・どのくらい」あるのかなど、ふだんの愛犬・愛猫の行動を問診します。朝起きた時の歩き出しに症状が見られ、お散歩などである程度動くと症状が緩和されるケースもよくあります。
さらに、腫れの有無や立ったとき、歩いたときの姿勢など目視で確認した後、獣医師が犬や猫の関節を実際に触って「可動域・痛みの出方」などを診察します。
血液検査・関節液の採取
感染症などによる関節炎や免疫疾患による関節炎の場合、血液検査をすることがあります。また、明らかな腫れがある場合、その原因特定のために関節液を採取するケースもあります。
画像診断
視触診では確認できない内部の状態について、レントゲンやCTなどの画像診断を行います。特に「膝蓋骨脱臼(パテラ)」、「股関節形成不全」などが原因となって、関節炎を起こしている場合がありますし、そもそも関節炎に似た症状であっても、別の病気が原因となっている場合もあるからです。
しかし、早期の関節炎の場合は、レントゲン検査での検出が困難です。レントゲンにより関節鼠や骨棘がみられるのは、慢性化して進行した関節炎の場合が多いです。
尿による関節炎の検査
動物はまだあまり一般的ではありませんが、関節炎を早期から発見治療するために、尿によるバイオマーカーである「コラーゲンタイプⅡネオエピトープ(CⅡNE)」検査を推奨しています。このマーカーは関節の軟骨成分がダメージを受けることで上昇するもので、関節炎の早期から増高が認められるため、関節炎の早期発見治療に有用です。
当院では、この検査の実用にむけて臨床試験段階から協力しており、2024年から検査受付を開始した新しい検査です。尿による検査ですので、動物への負担がなく、痛みなどの症状を隠すのが上手な動物たちに、早期からの治療を可能にする優れた検査です。院内で採尿しなくても、清潔な場所で採取した1ml程度の尿を持ち込んでいただければ検査可能です。
関節炎の治療法
関節炎は、長い期間をかけて少しずつ進行していく病気です。いったん起こった関節の変形は元通りに完全回復できないため、治療の大前提は「痛みを緩和させること」になります。
痛みをおさえ、炎症の進行を止めるなどの“対症療法”により生活の質を向上させることにつながるのです。
それでは、関節炎の主な治療方法について代表的なものをご紹介していきます。
軽度の関節炎は“安静”に
運動量が多く関節炎を発症しているケースなら、行動を制限して関節炎の進行を止める必要があります。関節炎の症状が出ているとき、いつも通りの活動をさせると症状はさらに悪化します。基本的には安静に過ごさせることで症状が和らぐでしょう。
ただ、ずっと動かない状態で寝てばかりいると、関節のこわばりにより、状態は改善しません。犬や猫の様子を見ながら、適度に動くように促しつつ、獣医師と今後について相談することが大事です。
痛み止めの薬やサプリメント
触ると鳴くなど、痛みをともなっている場合は、痛み止めの飲み薬も治療方法のひとつです。
早期の場合や、炎症が強まっている期間は、まず炎症を抑えることで、関節の更なる障害を止めることが重要です。非ステロイド性鎮痛剤を用いることが一般的です。
しかし、中には長く飲み続けると胃腸や腎臓に負担がかかるものもあります。動物病院を受診して処方された薬を“獣医師の指示のもと”飲むことが大事です。
長期的な治療や、進行予防としては、サプリメントが有効です。関節炎の背景には「軟骨が摩耗」もあり、それを補う目的でコンドロイチンやグルコサミンが含有されたサプリメントを処方することがあります。
当院ではオメガ脂肪酸のサプリメントを使用することが多いです。
注射
内服薬やサプリメント以外にも、注射による治療もよく実施しています。
犬の場合、ポリ硫酸ペントサンナトリウム注射を、最初の月は4回/月、それ以降は1回/月の間隔で投与することで、歩様改善に効果が期待でき、抗炎症作用も得られます。
また、近年は疼痛緩和治療として、1カ月持続する痛み止めの注射剤として神経成長因子(NGF)に対するモノクローナル抗体製剤を使用しています。犬専用のものとしてベジンベトマブ(リブレラ)、猫専用のものではフルネベトマブ(ソレンシア)という注射剤を利用可能です。単なる疼痛緩和だけではなく、痛みに過敏になった関節の神経支配を、緩和する目的も期待できます。
外科的手術が行われることも
薬物療法で状態が改善するものもある一方で、薬などでは改善が見込めない重度の関節炎もあります。その場合、関節の固定や、人工関節といった外科手術が選択肢になるケースもありますが、適応はまれであることが多いです。
体重管理で関節への負荷を減らす
上記のようにいくつか治療法をご紹介しましたが、肥満がある場合、まずは体重を減らすことが最も大切です。
「食事の量が多過ぎる」「オヤツをたくさん与えている」などは体重増加の原因となるため注意しましょう。また、効率的に体重を減らすためには、体重管理用のフードに切り替えることもおすすめです。
「そんなにたくさん与えていないのに・・・」という場合であっても、関節炎の動物はそもそも痛みによって歩行を嫌い、運動量が減っている可能性があります。その場合は消費カロリーが少ないために、少な目の食餌量であっても太り続ける可能性もあります。もちろん、無理に運動させることもやめた方が良いでしょう。
環境を見直す
滑りやすいフローリングの環境は、犬や猫の関節を痛める原因です。ペット対応のフローリングへのリフォームや、カーペットやマットを敷くといった対策も負担軽減につながります。
また、階段を上らせないように、扉にゲートを設けておくのもいいでしょう。
飼い主ができる関節炎ケアのポイント
愛犬や愛猫に関節の痛みが起こると、いつもより元気がなさそうで心配ですよね。飼主様が知っておきたいケアのポイントをご紹介します。
日頃から愛犬・愛猫を詳しく観察しておく
犬や猫は痛みを我慢する動物です。そのため、関節に痛みがあってもいつも通りに動くことも多く、軽度の関節炎なら飼主様も気づかないかもしれません。
でも、何かしらのサインを発しているはずなので、日頃から愛犬や愛猫を細かに観察し、ちょっとした異変に気づけるようにしておくと安心です。特に散歩に行かない猫ちゃんは、発見が遅れます。
「最近ジャンプをしなくなった」などがサインかもしれません。
関節炎を疑ったら、まずは動物病院を受診
気になる点があったら動物病院を受診することが、関節炎の早期発見につながります。高齢になると、犬や猫は若いときよりも動きが鈍くなります。
「高齢だから」と放置すると一層状態が悪化することは多いです。少しでも早いうちに痛みを取ってあげられるように、まずは獣医師に診察をしてもらうことが大事です。
まとめ
「元気がなさそう」「ちょっと歩きづらそう」と老化症状に見えても関節炎を発症していることも多いです。放置していると症状がさらに進行し、寝たきりとなる可能性も少なくありません。
大切な愛犬・愛猫が寝てばかりいるのは飼主様にとっても辛いこと。
「もっと早く病院に連れていけばよかった」と後悔したくありませんよね。
当院では関節炎を早期診断し、食事管理や体重管理、投薬、サプリメント、注射など様々な治療法をご提案しながら、進行予防から治療まで実施してまいります。早めの対応が愛犬や愛猫の今後の健康につながります。「年のせい」と諦めずに、まずは当院にご相談ください。
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