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猫の膀胱炎ってどんな病気?主な症状や発症メカニズムを詳しく解説2025.05.29

猫がかかりやすい病気のひとつに“膀胱炎”がありますが、初期症状が目立たないことも多く、見過ごされがちな病気です。

「この頃、トイレの回数が増えたかも」
「排尿しているのに量がかなり少ない」
「おしっこが血のような色になっている」
などのサインがあれば、もしかしたら膀胱炎かもしれません。

気づかないうちに重篤化すると、猫の苦しみが増えるばかりか、命を脅かすリスクもあります。早期に発見して治療できるように「猫の膀胱炎」について知っておくと安心です。

今回は猫が膀胱炎になる原因や症状、検査法、治療法などを詳しくお話していきます。

猫の膀胱炎ってどんな病気?

まずは、膀胱炎を発症するメカニズムについてお話します。

膀胱炎は、腎臓で作り出された尿を溜めておく“膀胱”の内側に炎症が起こる病気です。

通常、腎臓で作った尿を一時的に膀胱に溜めた後、ある程度溜まったら尿意がもよおされて“排尿”により外に出ます。しかし、膀胱に炎症が起こって刺激を受けたことで正常に排尿できなくなるのが膀胱炎です。

膀胱炎の猫が見せる症状について

普段から猫の様子をじっくり観察していると、膀胱炎の可能性に気づきやすくなります。それでは、膀胱炎の代表的な症状をいくつか解説していきます。

少量の尿を何度も出す、頻尿になる

トイレに何度も行く“頻尿”は膀胱炎の可能性があります。

膀胱内が炎症を起こすと、尿が少量しか溜まっていないのに「排尿したい」という気持ちになります。しかし、いざトイレに行くとそんなに出ないのです。

猫が頻尿になったと感じたら、「トイレの回数」はもちろんですが尿量をチェックすることが大事です。

尿に色やニオイがつく キラキラが混じる

尿に変色やニオイが伴うのも膀胱炎の症状のひとつです。

濁りのある尿、血が混じった尿などは膀胱炎のサインかもしれません。特に多いのは、排尿の最後に血が数滴垂れるような血尿です。また、全体が赤いのではなく、褐色がかったものも血尿の可能性があります。一方、排尿までの間隔が長かった場合は、ふだんよりも“濃い”色になることがあり、これは濃縮尿と言って正常のものと言えるでしょう。

まれに尿に微細な結石が排出されることもあります。ペットシートやトイレの底に、キラキラしたものが残っていれば、すぐに動物病院を受診した方が良いでしょう。

排尿時間が長引く

膀胱炎になると残尿感があり、本当は膀胱内の尿を出しきっているはずなのに残尿感によって「まだ出そう」と排尿ポーズを取ることがあります。
長時間トイレにいるのに、そんなに量が出ないのも膀胱炎のサインです。

トイレの際に鳴いている

膀胱炎がひどくなると痛みも強まり、排尿時に鳴くこともあります。

猫が膀胱炎になるのはなぜ?考えられる主な原因を徹底解説

猫が膀胱炎になるのには多くの原因があります。

「結晶」や「結石」によるもの

猫の年代問わず、膀胱炎の理由で多いのが尿中に析出する結晶や、膀胱や尿道にできる結石です。

猫では「ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)」や「シュウ酸カルシウム」という結晶がよくみられます。これらは肉眼では見えませんが、膀胱内の粘膜を刺激し膀胱炎の原因となります。食事内容や細菌感染、肥満、体質などが原因となると考えられています。

これらの結晶がさらに多く発生して砂粒や結石となると、より粘膜を刺激しますし、時には尿道を詰まらせて排尿できなくなることもあります。

感染症によるもの

泌尿器内に細菌が侵入・増殖し、炎症を起こすこともあります。原因となる細菌は、大腸菌やブドウ球菌などであり、ほとんどが猫の体表に存在する常在菌や便由来の細菌です。

トイレになかなか行けない環境、排尿を我慢している状況が続くのも細菌が入り込みやすい原因となっています。

また、そもそも猫は砂漠時代の名残から少量の水でも生存できる体質。「水を飲まない=尿量が少ない」ことから、少ない尿が膀胱内に長時間とどまり、“細菌が外に出づらい・増殖する”といった状況を作り出しています。

ただ、犬と比べると、猫の場合は細菌感染が原因の膀胱炎はそれほど多くないと言われています。

ストレスや生活習慣などによる発生

結石や細菌などが原因の場合、検査によって判明します。しかし、尿検査をしても原因らしき物質が発見できないケースもあります。

膀胱炎の症状があっても検査で不明な膀胱炎が「特発性膀胱炎」です。比較的若い猫ちゃんでは、この特発性膀胱炎が多いと言われています。

はっきりした原因は分からないですが、以下のことが言われています。

・肥満 運動をしない
・トイレが1つしかない
・同居猫との仲が悪い
・神経質な性格
・引っ越しや来客などのストレスが多い
・水分摂取が少ない
・高齢ではないことが多い
・品種としては、ペルシャ、ヒマラヤンは高リスク(どの猫も可能性あり)

猫の膀胱炎が疑われる場合、動物病院ではどのような検査をするの?

膀胱炎はさまざまな原因があります。

膀胱炎の疑いがある場合、
・飼い主様からの問診
・触診
・尿検査
・血液検査
・レントゲン検査
・エコー検査
などの検査を行います。

中でも尿検査、膀胱エコー検査は特に重要で、「細菌感染をしていないか」「結晶や結石があるかどうか」「出血の有無」といったことを確認可能です。当院の尿検査ではAI技術を活用した画像診断と、人の目で行う顕微鏡検査を組み合わせ、より確実に診断できるようにしています。また猫の場合、膀胱内に砂粒が沈殿しているケースが多く、尿検査とエコー検査を組み合わせることも重要です。

猫の膀胱炎の治療法とは?抗生物質の投与から療法食まで詳しく解説

膀胱炎の原因や猫の状態によって治療法も異なってきます。一般的な治療法をご紹介します。

投薬治療

細菌が原因の膀胱炎の場合、炎症の度合いによっては、体内に入った細菌が増えるのを抑える薬“抗生物質”を投与します。
通常、抗生物質は飲み薬を選ぶことが多いですが、「猫が飲みたがらない」など投薬が難しいケースでは注射が選択されるケースもあります。また細菌培養検査によって菌を特定し、薬剤感受性検査(※)を行うことで抗生物質を選択することもよく実施しています。

猫が痛がったり発熱しているケースでは解熱剤、尿に血が混ざっているときは止血剤なども治療法として選ばれます。

※薬剤感受性検査:培養により検出された菌に対して、どの抗生物質が効くのか調べる検査です。根拠に基づいて効果の期待できる投薬をすることで、耐性菌の出現リスクを減らしたり、体への負担を減らしたりすることにつながります。

水分をたくさん摂らせて排尿させる

多くの水分を確保させて排尿を促すのも治療で大切です。それが“膀胱炎を引き起こしている物質”を洗い流すことにつながります。

ただ、猫はもともと体質的に水を欲しない動物であることから、治療のために水をいつも以上に飲ませることは難しいことが多いです。

そこで、点滴により尿量を増やすこともよく実施されます。

膀胱結石がある場合は除去する治療

膀胱結石による膀胱炎の場合、結石を取り除く治療が行われます。

結石の大きさによって、投薬や療法食などをします。すでに尿道に詰まりがあるケースでは、尿道よりカテーテルを入れて洗い流す治療が選ばれることもあります。

結石のサイズが小さく、ストルバイト結石とみられる場合は、療法食による溶解を試みますが、結石のサイズが大きい場合や、シュウ酸カルシウム結石などの場合は、手術が必要となるでしょう。

生活環境の見直し

検査で細菌や結晶、結石が見つからない場合は、特発性膀胱炎と考えられます。

ストレスや肥満などが原因であれば、それらを見直すことが必要となり、生活環境の改善や、トイレの増設、ストレス軽減サプリメント等を検討します。基本的な膀胱炎の治療も実施します。

療法食による治療

結晶や結石によって膀胱に炎症が起こっている場合、療法食による治療は最も重要ともいえるでしょう。

特に猫の膀胱炎の原因としてよく見られるストルバイト結晶および結石は、専用の療法食で溶解させたり、消失させたりできる可能性が高いです。しかし、シュウ酸カルシウム結晶および結石の場合は溶解できませんので、基本的に手術適用となります。また、複数の成分が組み合わさった結石もあるので注意が必要です。

また年齢や体重、膀胱炎の状態によってベストな療法食は違うため、市販のフードを適当に与えるのではなく、獣医師と相談しながら選ぶことが大事です。

猫の膀胱炎を予防するために大切な習慣とは

猫の膀胱炎は、飲み水やストレス軽減などの“日ごろの生活環境”を整えることが予防策となります。

特に、一度膀胱炎を経験している猫の場合、再発のリスクも高いので日常的に飼い主様ができるポイントをおさえておくことが大切です。

飲み水を増やす

排尿を促すために、できるだけ水分量を増やすことが膀胱炎の予防法になります。

飲水量を増量するには、
・水飲み場を複数設ける
・飲みやすい食器に水を入れておく
・給水器を置く
・落ち着く場所に飲み水を置く
・猫の好きな水を考える(温度にも配慮)
といった工夫をしましょう。

また、水分はフードからも摂ることができます。キャットフードを“カリカリ”のタイプしか食べない場合、フードから水分を得ることが難しいです。「あまり水を飲んでくれない」という猫の場合、水分摂取のためにウェットフードを取り入れるのもおすすめです。ただし歯石が付きやすくなる可能性もありますので、お口のケアも同時に検討する必要があるでしょう。

肥満を防ぐ

肥満は、膀胱炎のリスク要因の中でも特に重要項目とされています。

肥満は、「キャットフードを与え過ぎている」「運動不足」などから引き起こされるので原因を見直すことがとても大切です。一緒にあそんだり、キャットタワーを設置したりすることが対策となりますが、動きたがらない猫に運動させるのはとても難しいことです。フードを少し減らすことや、減量用フードに変更することが最も効果的でしょう。

トイレを綺麗・快適に保つ

猫はとてもデリケートな動物です。

「汚れている」「おしっこしづらい」「ガヤガヤして落ち着かない場所」「他の猫とトイレを共用している」など、トイレに不満があって“我慢している”ケースも少なくありません。

猫が安心して心地良く排尿できるように、
・トイレの位置(静かな場所に置く)
・トイレの衛生面(汚れていたらお手入れをする)
・トイレの形(猫が出入りしやすい形)
・猫砂(猫好みのものに)
・トイレの数を増やす(飼育頭数プラス1個)
などにこだわってみましょう。

ストレスを溜めさせない

猫の膀胱炎は、検査ではっきりした原因が分からない特発性膀胱炎も多いです。

猫が抱えるストレスは、
・多頭飼育(相性の悪い動物がいるなど…)
・飼育環境が狭くて動きづらい
・トイレが汚くて排尿したくない
・何らかの病気になって痛み・不安がある
・部屋の温度が不快(暑過ぎ・寒過ぎなど)
・毎日大きな音がして怖い
・引っ越しして環境になれない
・部屋の芳香剤のニオイが強い
など多いです。

生活環境のなかに、さまざまなストレスの原因が隠されているかもしれません。猫自身は自分ではどうにもできないため、飼い主様がその原因を見極め改善できるところは直して取り除きましょう。

定期的に健康診断で猫の体をチェックする

動物病院への受診は、何か異変があったら訪れるという方も多いかもしれません。ただ、何もなくても定期的に健康診断をすることで病気の早期発見につながることも多いです。

尿検査・血液検査など、見た目では分からない異常に気づけるかもしれません。特に、高齢になってくると、膀胱炎だけでなく、さまざまな病気を発症しやすくなります。

定期的に健康診断を受けることは、「猫の寿命を延ばすこと・猫が心地良く安心して暮らせること」につながります。

膀胱炎の恐ろしさ~尿道閉塞と腎不全~

膀胱炎が重症化した場合、尿道閉塞を起こすことがあります。
その症状は、尿道が詰まることでおしっこが出せなくなるのですが、膀胱炎の頻尿とよく似ています。猫は何度もトイレでいきむようになり、排尿量は全く出ないか、ごく数滴です。これは頻尿の時の症状と似ており、いつもの膀胱炎かと思っていると、実は尿道が詰まってしまっていたということもあるのです。

尿道閉塞は、結石によって起こると思われている方も多いでしょう。しかし、尿道閉塞の多くは、「尿道栓子」という炎症性産物や剥がれた細胞(垢)、血餅、結晶などが混じった粘性の物質が詰まることで起きています。つまりは、膀胱結石が無くても、膀胱炎をこじらせることで尿道閉塞が起きてしまうリスクがあるのです。とくに雄猫の場合は常にそのリスクを考えておく必要があるでしょう。

ひとたび尿道閉塞を起こしてしまうと排尿困難となり、食欲不振、嘔吐などの症状も見られるようになることが多いです。1~2日後には腎臓の数値が上昇し、重症の場合は病院で集中的な治療が必要となります。

尿道閉塞により尿が出せずに、腎臓に負担がかかると急性腎不全を起こします。ほとんどが、尿道の閉塞を解除し、治療することで回復します。しかし、何度も繰り返しているケースや、治療が遅くなったケースでは、腎臓のダメージが重度となり、その後の慢性的な腎機能低下につながるリスクもありますので注意が必要です。

まとめ

膀胱炎の症状や治療法などについて詳しくお伝えしました。

膀胱炎は、「頻尿になる」「尿の量が減る」「排尿ポーズをしているのに出ていない」といったトイレ関連の異変を見せることが多いですが、猫は“敵に弱さを知られたくない”という野生時代の名残もあって辛くても痛くても我慢することが多いです。排尿時以外は元気なこともあるため様子見しがちですが、尿道閉塞や慢性膀胱炎など重症化させないためにも、早めの受診が大切です。
また膀胱炎のような症状であっても、膀胱腫瘍や生殖器疾患などの他の病気が隠れているという可能性もあります。

日ごろから愛猫の観察を続け、気になる仕草や「いつもと何かが違う」といった気づきがあれば、出来るだけ早めに動物病院を受診しましょう。

当院は、川崎市の「最良のかかりつけ動物病院」として、優れた技術や新しい設備の導入はもちろん、スタッフの努力と信念により理想とする病院をかたち作っています。

「愛猫が膀胱炎かもしれない」「どうしたらいいか分からない」といった飼い主様のご不安に寄り添いながら、適切な診断・治療を進めてまいります。

膀胱炎は早く見つけることで早めに治療もでき、猫も苦しまずに済みます。気になる点がございましたら、早めにご相談ください。



監修者

竹原 秀行

竹原獣医科院 院長

竹原 秀行
2019年~ 川崎市獣医師会 顧問
2011年~2019年 川崎市獣医師会 会長
2009年~2011年 日本小動物獣医師会 理事

所属:比較眼科学会

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