当院の血液・尿の検査項目の解説2024.11.13
当院で実施している検査のうち、健診や診療の中で一般的に行われている検査項目について解説します。
当院で検査を受けられた方は、獣医師が結果について直接説明しておりますが、気になる点がある方はご参考にされてください。なお基準値(正常値)につきましては、測定機器や検査機関により多少異なるため割愛しています。
(※実際の診断は、直接担当した獣医師の診察にもとづく総合的な判断が必要ですので、検査結果はあくまで指標としてご参考いただきますようお願いいたします。)
Contents
- 1 血液検査について
- 1.1 白血球数(WBC)
- 1.2 赤血球数 血色素量(ヘモグロビン濃度、HGB) ヘマトクリット値
- 1.3 血小板数(PLT)
- 1.4 総蛋白 アルブミン(ALB) グロブリン(GLOB)
- 1.5 総ビリルビン(TBIL)
- 1.6 ALP
- 1.7 GPT(ALT)
- 1.8 尿素窒素(BUN)
- 1.9 クレアチニン(CRE)
- 1.10 リパーゼ(LIP)
- 1.11 総コレスルテロール(TCHO) 中性脂肪(TG)
- 1.12 ナトリウム(Na) カリウム(K) クロール(Cl)
- 1.13 カルシウム(Ca)
- 1.14 無機リン(PHOS)
- 1.15 血糖(GLU)
- 1.16 C-CRP(犬CRP)
- 1.17 猫SAA(アミロイドA)
- 1.18 T4
- 1.19 NT-proANP(犬)
- 1.20 NT-proBNP(猫)
- 2 尿検査について
血液検査について
白血球数(WBC)
体を守る生体防御の役割を担う細胞で、主に細菌感染や炎症性疾患の際に増加します。白血球には好中球、リンパ球、好酸球などの種類があり、それぞれの役割を持っています。疾患が治療されても正常値に戻るまでに少し期間がかかる場合があります。 またパルボウイルスなどのウイルス疾患で重度の減少、白血病では重度の上昇が見られます。リンパ腫では正常値から高値を認める場合があり、また抗がん剤投与症例では著しい低下を認めることがあります。
赤血球数 血色素量(ヘモグロビン濃度、HGB) ヘマトクリット値
(HCT)
赤血球は血液の主体をなし、全身に循環し酸素を送ることが主な役割です。赤血球系の検査項目は、主に血液の濃さを見ることで、貧血を有無、脱水や多血症の有無を確認します。貧血には急性/慢性、再生性/非再生性、その他細かい分類があります。MCV、MCH、MCHC,網状赤血球数などを加味して判断されます。 保護猫などにはノミ吸血による貧血や、ウイルス疾患による貧血がたびたび見られます。また免疫介在性溶血性貧血や腹腔内出血による重度の急性貧血は、命にかかわる危機的な状態です。慢性的なものとしては、炎症による慢性貧血や、慢性腎不全による腎性貧血、クッシング症候群や腎臓腫瘍による多血などが当院でもしばしば診断されています。
血小板数(PLT)
血管が傷づいて出血した際に、最初に止血の材料となるのが血小板です。血小板減少症では、出血しやすくなることで皮膚にあざが出ることが多くあります。また褐色~赤色尿や黒色便がが出ることがあります。 また、採血による刺激や血液処理の過程で、血小板が凝集して低めに測定されることがよくあります。実際の採血箇所からの止血に問題がなく、血小板値の程度、全身状態などから、問題ないと説明する場合もあります。
総蛋白 アルブミン(ALB) グロブリン(GLOB)
血液中の血漿タンパクを測定します。総蛋白は、アルブミンとグロブリンの和です。
アルブミンは浸透圧を調整したり、血中の様々な物質を運搬、保持したりする役割があり、これが重度に低下すると、浮腫(むくみ)により肺水腫や胸水、腹水が生じることもあります。
腸疾患(蛋白漏出性腸症など)、肝疾患(肝不全など)、腎疾患(蛋白漏出性腎症など)が主な原因となります。また肝腫瘍などで高値となることもあります。
グロブリンは免疫の機構の一つである抗体機能をもつ蛋白ですが、猫伝染性腹膜炎や多発性骨髄腫などで高値となることが知られています。
総ビリルビン(TBIL)
胆汁色素の一つで、高値の時に問題となります。主に血液疾患や肝臓疾患、胆嚢疾患の時に上昇します。当院では、溶血性貧血、急性肝炎、猫の三臓器炎、胆嚢粘液嚢腫などに関連した症状もよく見られます。
ALP
肝臓、胆嚢、腎臓、骨などに由来して上昇します。一般的なものとしては、成長期の骨成長によるもの(正常な上昇)、肝胆道系疾患によるもの(胆泥症、慢性肝炎、脂肪肝等による空胞性肝障害)、ステロイド投与による上昇、その他疾患(ホルモン疾患、循環器疾患によるうっ血性肝障害)など様々な要因で上昇します。数値の幅も非常に大きく、数千という数値になることもありますが、体調と数値の上昇程度はかならずしも合致せず、原因疾患次第となります。
GPT(ALT)
肝細胞障害の有無と程度の指標となります。急性/慢性肝炎、胆管肝炎、肝腫瘍などの肝疾患の他に、猫の甲状腺機能亢進症などでも軽度から中程度の上昇を認める場合があります。
尿素窒素(BUN)
腎機能の指標となります。タンパク質の代謝によって生じる老廃物である尿素窒素は、腎臓でろ過されて尿中に排泄されます。そのため、腎機能が落ちると、その排泄能が低下するため血液中に増加するのです。しかしその他、消化管出血、循環器系疾患、高タンパク食など様々な影響を受けて上昇しますので、基準値を軽度に上回るというだけで、腎疾患と診断することはできません。
クレアチニン(CRE)
腎機能の指標となります。筋肉由来の物質であるため、腎機能評価の上で尿素窒素よりも、他の要因に影響を受けづらいとされています。国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)によるガイドラインによるステージ分類においても重要な役割を持ちます。しかし、初期の腎不全を発見、診断するためには他の評価検討が必要です。またもともと筋量の低い小型の犬猫や痩せた動物では、上昇が乏しい可能性があります。
リパーゼ(LIP)
膵臓、消化管粘膜由来の酵素です。特に急性/慢性膵炎において、膵臓の細胞の負担や障害を判断する指標となります。
他の検査項目であるアミラーゼよりも膵臓特異性が高い膵特異的リパーゼとの相関性が示されています。
当院では膵特異的リパーゼも測定可能ですが、検査費用や検査期間の問題から、健診などでは実施されないことが多いです。なお、リパーゼが高いというだけで、膵炎であるというわけではありません。
総コレスルテロール(TCHO) 中性脂肪(TG)
食物から吸収した脂肪は、体内で代謝を受けてコレステロールとなり利用され排出されます。
中性脂肪、コレルテロールの両方あるいは片方の上昇を、高脂血症と言います。
食後は中性脂肪が上昇するのが一般的で、健診でも指摘されやすい部分です。
次回からは朝ごはんを抜いて(成犬成猫は12時間の絶食が望ましい)、採血を受けるようにして下さい。また肥満体型の動物でも高値になることがあり、ダイエットを推奨します。
しかし絶食時でも中性脂肪が高値の動物は、遺伝性の高脂血症(シュナウザーやシェルティー等)、脂質代謝異常、ホルモン疾患など、疾患やそれにつながるリスクのある状態かもしれません。
コレルテロール値の異常も同様で、肝疾患、糖尿病、ホルモン疾患を示唆する場合がありますので要注意です。高脂血症は、病気のサインでもあり、病気を誘発する要因にもなるのです。当院に来院する犬猫でも、糖尿病やホルモン疾患がよくみられます。
高脂血症により眼が白濁する脂質集積性房水を発症した症例もありました。健診で脂質系の数値が高い場合は、食事の変更や、より詳しいコレステロールの検査を実施することが推奨されます。なお動脈硬化との関連は、人間ほど一般的ではないようです。
ナトリウム(Na) カリウム(K) クロール(Cl)
いわゆる電解質とよばれる物質で、体をつくる水分と細胞双方において、水分や浸透圧、PH、イオン、筋肉運動など様々なもののバランスを調整するために必要なものです。 これら単体で何か病気を評価することはありませんが、大きな逸脱は重篤な状態を示唆します。重度の消化器症状や脱水、虚弱、交通事故、腎不全、ホルモン疾患、尿路疾患、腫瘍性疾患など多くの重大事態において、把握が必要な項目です。
カルシウム(Ca)
骨の強さをイメージされる方が多いかと思いますが、実際には内分泌疾患、腎疾患、腫瘍性疾患などでよく指標とされます。肛門嚢腺癌などの症例で腫瘍随伴症候群による高Ca血症も当院では数件確認されています。
無機リン(PHOS)
ホルモン、骨代謝、腎機能、消化機能により影響をうけます。腎不全の治療では特に、血清リンの上昇を抑えることが重要とされており、早期から食事中のリン制限を行うことが推奨されています。当院では、慢性腎不全を早期の時点で発見、治療するために、FGF-23等他の項目も重視して、リン代謝を早期から監視することを推奨しています。
血糖(GLU)
血糖値は血液中の糖分で、エネルギーとして利用されるため、常に一定の高さに保たれています。これが低くなることを低血糖、高くなることを高血糖と言います。
健診で軽度の低血糖となった場合、採血後の時間の経過により下がってしまった可能性があります。先生によっては、採血後の処理の関係で、血糖値が低下した可能性があることを伝えてくれるでしょう。
しかし明らかな低血糖の場合は注意が必要です。幼弱動物は、短期間の絶食や嘔吐下痢によっても低血糖を起こしますし、中年齢以降ではインスリノーマ(血糖値を下げるホルモンを分泌する腫瘍)の心配もあります。
またインスリノーマが多いフェレットでは、軽度の低値でも潜在的なリスクと認識して、症状に気を付けて食生活を送る必要があるかもしれません。
明らかな高血糖の場合は糖尿病の追加検査を勧める必要があるでしょう。糖尿病は、多飲多尿、削痩がみられるのが一般的です。
診断には尿検査の他にGA(グリコアルブミン)やフルクトサミンといった長期間の血糖値の指標となるような項目を追加して実施します。しかし猫で軽度の上昇である場合、来院によるストレスや緊張からくる高血糖の可能性が高いでしょう。
C-CRP(犬CRP)
犬における炎症の有無や程度を評価します。特に急性炎症の際に24-48時間かけて上昇し、感染症や外傷、腫瘍性疾患などでも上昇します。また治療効果の判断材料としても有用です。当院では院内で40まで測定可能です。どの部位で炎症を起こしているか調べるには、他の検査が必要です。
猫SAA(アミロイドA)
猫における炎症の有無や程度を評価します。特に急性炎症の際に24-48時間かけて上昇し、感染症や外傷、腫瘍性疾患などでも上昇します。また治療効果の判断材料としても有用です。どの部位で炎症を起こしているか調べるには、他の検査が必要です。
T4
甲状腺ホルモン値です。主に犬の場合は、甲状腺機能低下症や、基礎疾患の影響を受けて下がります。この数値に加え、他のホルモン検査を併用して診断していくケースが多いです。猫の場合は主に、甲状腺機能亢進症により上がります。低下症や亢進症の場合は、このホルモン値が正常範囲内に保たれるように治療していくこととなります。
NT-proANP(犬)
犬に好発する僧帽弁閉鎖不全症など、左心房に負荷のかかる心疾患において上昇する心臓バイオマーカーです。心臓病の細かい評価には、身体検査、聴診、画像検査が必要不可欠ですが、初期や無徴候性の病態評価に有用とされており、当院では健診時の測定項目としてお勧めしています。
NT-proBNP(猫)
猫に好発する肥大型心筋症や拡張型心筋症など、心筋に負荷のかかる心疾患において上昇する心臓バイオマーカーです。犬の心疾患は、むせこみ(発咳)や散歩時の疲労といった症状で、飼い主様が気付くケースが多いですが、猫の心疾患は、初期症状があまり目立たず、症状が出たころには胸水や肺水腫など、重篤な状態になっていることがあります。
この項目だけで心疾患を診断することはできませんが、当院では早期発見の為、健診時の測定項目としてお勧めしています。
尿検査について
CⅡNE
犬猫の尿中における変形性関節症のバイオマーカーです。中年齢の犬猫の多くが関節炎に罹患していると言われています。しかし初期の段階では症状を隠しているケースが多く、レントゲン検査でも異常を認めない場合が多いです。進行する前に対策や治療をすることが重要です。健診時に尿を持参いただければ検査可能です。
尿比重
尿は腎臓によってろ過や再吸収を受けるなかで濃縮されて排泄されます。多飲多尿(たくさん飲んでたくさん尿をする)の状態や腎機能が落ちた状態の場合、濃縮されていた尿がだんだんと薄くなり、希釈尿となり比重が下がります。
尿PH
尿の酸性・アルカリ性度合いを評価します。特に尿石症や膀胱炎の症例ではPHが異常であることが多く、酸性尿(PHの低下)ではシュウ酸カルシウム結晶、アルカリ性尿(PHの上昇)ではストルバイト結晶による尿石症が生じやすいです。また細菌性膀胱炎の場合も、PHは上昇しやすいとされています。
尿蛋白 UPC比
尿蛋白は腎臓疾患の指標となります。特に腎糸球体疾患における蛋白漏出の指標となりますが、膀胱炎などその他の疾患でも上昇することがあります。慢性腎不全の初期の場合では、BUNやCRE等一般的な血液検査項目は上昇しない為、蛋白尿による健診が重要と考えられます。
尿潜血
尿に血が混じっていると陽性となります。血が混じる原因は様々で、膀胱炎や尿石症が多く、時には膀胱や腎臓の腫瘍などがみられます。また血液の病気では、血色素が出て尿が褐色になる場合があります。また尿の色に異常がなくても、血が混じっている場合がありますので注意が必要です。
尿糖/尿ケトン
主に糖尿病の評価に使用されます。稀に腎疾患で尿糖が検出される場合があります。
顕微鏡所見
結晶、細菌、細胞成分、円柱などを観察することで、非常に多くの情報が得られます。当院ではAI技術を使用した最新の検査機器(IDEXX SediVue DX)を導入しております。
-
2024.11.13
当院の血液・尿の検査項目の解説
-
2024.10.02
犬猫が下痢をしているのは何の病気?
病院に連れていくべき深刻な症状やすぐにできる対処方法を解説 -
2024.08.09
犬猫によく起こる「外耳炎」とは?外耳炎が起こる背景と治療法、発症を防ぐための“予防策”もあわせて解説します
-
2024.07.31
犬猫の耳血腫は耳が腫れる病気?耳の形が変わってしまう?症状や原因、キレイな形で治す方法などを解説します
-
2024.06.05
犬に“イボ”を発見したら…治療すべき?犬の皮膚にできるイボの原因や種類、主な治療法などについて詳しく解説します
-
2024.05.13
犬に歯肉炎の症状が…!?歯茎の腫れや赤みなどの症状やその原因、治療法や対策とは?
-
2024.04.03
猫の歯周病は何が原因?
歯周病になった猫が見せる症状や治し方のポイント -
2024.03.11
犬の歯周病の治し方とは?犬が歯周病を発症しやすい背景と予防方法まで詳しく解説
-
2024.02.27
動物病院選びの成功法!セカンドオピニオン活用術
-
2024.01.18
若手獣医師にインタビュー 獣医師 鑓水先生