犬の歯周病の治し方とは?犬が歯周病を発症しやすい背景と予防方法まで詳しく解説2024.03.11
歯周病は人間でも起こる病気で言葉自体は身近ですが、具体的に「どんな症状・どんな治し方があるか」については分からない方も多いでしょう。
歯周病は、口腔内に発生した細菌が身体のあちこちにさまざまな影響をもたらす病気です。
「口臭がする」「食事がしづらそう」「顔が腫れている」という症状があれば、もしかしたら歯周病かもしれません。
今回は、犬の歯周病について詳しくお伝えしていきます。
犬の歯周病の症状とは?
犬の歯周病の症状について見ていきましょう。
歯周病が及ぼす全身への影響と注意ポイント
歯周病は、犬によく見られる“お口の中”の疾患です。しかし、歯周病が進行して重度になると、その影響は全身に及ぶ可能性が高まります。
食事ができなくなる
歯周病が進むと犬は歯の痛みを常に感じるようになります。ご飯を食べたいのにもかかわらず、食べると歯が痛むという悪循環。「ご飯を食べる⇒痛いので食べるのを止める」という状態が見られるようになるでしょう。
顔が腫れる・穴があく
歯周病で細菌による炎症がひどくなると、膿が貯留して頬や目の下周辺が腫れることもあります。実は、「顔が腫れている」という異変で病院を受診されて歯周病が発覚するケースも多いです。
さらに、歯の根元で膿が溜まると頬の穴があくケースもあるのです。ちょっとした刺激でも激痛が走り愛犬もかなり辛いでしょう。
顔の腫れに気づいたときにできるだけ早急に動物病院を受診することをおすすめします。
顎の骨が折れるリスク
歯周病は、歯を支えている土台の骨が溶けやすくなります。顎の骨が薄くなるとちょっとしたきっかけで骨折するリスクが高まります。
特に、小型犬の場合、顎の骨も小さめで骨が折れやすい構造です。
「ドッグフードを噛んだとき」「おもちゃで遊ぼうとしたとき」「ソファーからジャンプで飛び降りた瞬間」など、些細なきっかけで骨折する犬もたくさんいます。
内臓の病気のリスク
歯周病による細菌感染は全身へと広がる可能性があります。
細菌が血管内に入り込んで運ばれたことで各臓器の働きが悪くなり、腎臓病、肝臓病、肺炎、心臓病などが起こるケースも考えられます。
歯周病は「お口の中だけ」にとどまらず、細菌が全身へと悪さをする可能性があることを知っておくことが大事です。
鼻水やくしゃみがひどくなる
犬の歯の根元に細菌が溜まって膿が発生すると、そこに近い「鼻腔」への影響が出ます。鼻水や膿、出血が見られることもあります。
それにともなってくしゃみも頻繁に起こりやすくなるでしょう。
特に、身体の小さな小型犬は、くしゃみの際の反動で顔が床にぶつかることも多々あります。いったんくしゃみが出ると何度も続くため、犬にとっても大きな負担です。
歯周病はどんな進行をたどる?
【初期】
初期の頃は「歯茎が少し赤い…?」という症状があるものの、目立った症状もなく飼主様も気づきにくいでしょう。初期段階では、歯表面に形成された「ペリクル」という膜に食べカスや細菌が定着し、プラークいわゆる「歯垢」となります。そしてそこにカルシウムやリンが沈着することで「歯石」になるのです。
【中期】
細菌を含んだ歯垢や歯石は犬の歯肉に炎症を起こすため、赤みのある腫れに気づく飼主様もいるでしょう。ますます歯垢が増加、お口のなかの臭いが気になってきます。歯茎が痩せ、出血が見られることもあります。
歯周ポケットにぐんぐん入り込んだ歯垢は、飼主様が歯ブラシで磨いたとしても除去が難しいです。
【後期】
細菌感染が歯の根元にまで達し、歯の土台となる組織へと炎症。歯肉炎が進行し、歯槽膿漏を引き起こすと重度の歯周炎です。犬はご飯が食べづらくなり、細菌感染によって他の病気が引き起こされる可能性も出てくるでしょう。
歯を支える歯肉と歯槽骨にまで感染や炎症が進むと、歯のぐらつきや抜けが起こるほか、顎の骨が溶けるケースがあります。上あごの骨が溶けた場合は、歯の根元に空いた穴が鼻の穴とつながってしまうことがあり、「口腔鼻腔ろう」といいます。そうなってしまうと、治療は抜歯だけでなく、周囲の歯肉を引っ張ってきて、その穴をふさぐ処置も必要となってしまいます。
また下あごの骨が溶けた場合は、下顎骨の骨折という重大な合併症を引き起こす可能性があります。
歯周病の診断方法
飼主様から状況をお聞きしたうえで、お口の中の視診やレントゲン撮影などにより診断します。
・ご飯を食べられないようだ
・歯を気にしているようだ
・目の下付近が腫れている
など、気になる点があれば歯周病の可能性も高いです。
症状が進んでいる場合は、歯の折れや抜けがあると思うので早めに受診をおすすめします。
歯周病の治療
歯周病の治療は、進行の程度によって治し方の選択肢も変わってきます。本当に初期の頃なら歯磨きを念入りにすることで進行を遅らせることはできますが、多くの場合「歯石除去」や「抜歯」などの治し方が選択されることになるでしょう。
歯石除去から抜歯まで
【歯石除去】
歯周病の初期、軽度の歯周病の時期なら、歯石除去での治し方を勧められるケースがほとんどです。
歯石は歯周ポケットにも入り込んでいるので、丁寧な治療が必要になってきます。歯石を取り除いた後は、歯をツヤツヤに磨き、次に汚れが付着しにくいようにします。
【抜歯】
ぐらつきのある歯や、膿を持ってしまった歯などがある重度の歯周病の場合、痛みを取り除けるように外科治療となり、抜歯を行うケースが多いです。
【内科的治療】
歯周病はすでに口のなかに細菌が存在しているため、炎症を拡大させないためにも投薬での治し方が選択されることもあります。
痛み止めや抗生物質などを中心とした治し方で、犬の状態を見極めながら内科的治療を進めていくことになります。
また、年齢的に外科的治療が難しい場合も、症状緩和の目的で投薬治療が選択肢となるでしょう。
麻酔はかけたほうがいい?
歯石除去や抜歯による治療では、基本的に全身麻酔が必要です。
無麻酔で歯石を取ることは、犬にとっては何をされているか分からず恐怖の時間が続きます。
特に、お口の中はふだん誰かに触られることのない箇所。犬の意識がある状態で歯石除去を行おうとすると、「抵抗して暴れる」「器具が刺さって口のなかが傷つく」「歯が割れる」といった危険をともないます。
何より、犬自身にとって“口を触られる=怖い”という気持ちが芽生え、今後、歯磨きも嫌がるほか、お口の病気になったときに診察が難しくなってしまうでしょう。
飼主様にとっては、愛犬に全身麻酔を施すことは大変心配なことかもしれません。でも、犬の安全のため、しっかり治療を行うためには、全身麻酔は欠かせないものと言えるでしょう。
ただし、犬の年齢やほかの基礎疾患なども考慮に入れながら、「麻酔に耐えられる」と判断をしたうえで治療を行っていきます。ご不安な点はご相談ください。
歯周病の予防
3歳を超えると8割もの犬が歯周病を発症していると言われています。歯周病の予防には、愛犬の口腔ケアが重要です。
歯磨きで歯周病を予防
犬の歯周病を促進する背景に「歯磨きのケア不足」があります。
野生の犬は歯磨きをせずに生活できることから、ペットとして飼った犬についても「歯磨きは不要なのでは?」と思い込んでいる飼主様もいるようです。
確かに、野生の犬は歯磨きしません。ただ、自然界の食べ物は硬く、“噛む力・引きちぎる力”が必要で、食べる際に歯磨きと同様の効果が生まれることから歯周病にはなりづらい生活習慣と言えます。
人間と共に暮らしている犬の場合、柔らかなフードやおやつを食べる機会が増え、歯石の原因になる「歯垢」が残ってしまうリスクが高まります。そこで重要なのが日々の歯磨き習慣です。
しかし、犬にとっては歯ブラシを入れられてゴシゴシ磨かれるのは恐怖です。成長してから歯磨きを始めると嫌がるケースも多いため、できるだけ子犬の頃から始めて「歯磨き」に慣れさせましょう。
犬用の歯ブラシで歯の表面だけでなく、歯の隙間に入り込んだ食事カスを取り除くイメージで丁寧に磨きます。
獣医師と協力して定期チェックを実施しよう
毎日歯磨きをしていても、歯周病対策として万全ではありません。前述したように、歯周病の治療は初期なら犬にとっての負担が減ります。獣医師に口内を検査してもらい、適切な処置をしてもらい、歯周病が重度にならないようにしましょう。
ご飯選びも重要
歯周病予防のためには、歯周病予防をサポートする食事が大切です。
市販のドッグフードには、カリカリした食感の「ドライフード」のほか、半生の「セミモイストタイプ」や水分量が多い「ウェットタイプ」があります。
このうち、セミモイストやウェットは、犬にとっても香り豊かで食欲をそそるため、食いつきをよくする目的で食べさせている飼主様もいるのではないでしょうか。
ただ、「歯につきづらく、噛む力も必要なドライフード」と比べて、セミモイストやウェットは「柔らかく食べやすく歯の力が弱まるうえ、歯の間に食べカスが残りやすい」という特徴があります。
そのため、歯磨き習慣のない犬や、正しい歯磨きが行われていない犬、ふだんから半生やウェットタイプのフードを食べている犬などは、多くの確率で歯周病が発生しているのが現状です。
また、歯磨き効果のあるフードを選ぶのもおすすめです。
老犬の歯周病対策
歯周病対策には、年齢に応じたケアが大切です。特に、高齢の犬は気づかないうちに進行していた歯周病が重度になっているケースもあります。
老犬にありがちな口臭や口腔トラブルと対策
歯周病により口腔が炎症すると口臭がきつく、次第に歯が抜け食欲も落ちることがあります。
ただ、「食欲がないこと」や「歯が抜けてきたこと」を年齢のせいと考える飼主様もいるかもしれません。しかし、軽く考えて対策をしなければ、「食事量が落ちる=栄養不足」につながります。次第に歯周病だけではなく、身体全体に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
本来は子犬の頃からの歯磨き習慣が理想的ですが、老犬になってからでも遅すぎることはありません。丁寧な歯磨きで対策しましょう。
とは言え、それまで歯磨きをあまりできていなかった老犬の場合、「口のなかを触られる」こと自体が嫌なこと。くれぐれも無理強いしないようにしましょう。
「遊びながら口に触れる」という程度からはじめ、少しずつ磨けるように取り組んでみてくださいね。
高齢犬への歯科診療:注意点と選ぶポイント
高齢犬の場合、歯周病がほかの重大な病気につながることがあります。
・口臭がきつくなった、
・口から出血している、
・歯茎が腫れているようだ、
・歯が抜けてしまった、
・顔が腫れている
などの異変があるときは動物病院の受診をおすすめします。
高齢犬は全身麻酔を使う外科的治療が難しいケースも多いです。ただ、診察もせずに何もしない場合、犬は痛みで日々苦しんでしまうでしょう。
診察により麻酔ができない場合でも、痛み止めの薬で症状の緩和は可能です。
私どもはさまざまな観点から、治療法をご提案しております。少しでも症状を和らげ、飼主様との楽しい時間が増えるように願っております。
「老犬だから治療できない」と諦めず、ご心配な点はお気軽にご相談ください。
まとめ
犬の歯周病について詳しくご紹介しました。歯周病は初期の頃はあまり目立った症状がなく、犬の異変に気づかない飼主様も多いです。
ところが、口のなかでゆっくりと歯周病が進行すると歯が抜け、全身に悪影響をもたらすリスクもあります。少し赤い程度だと様子見しようと思う飼主様もいるかもしれませんが、言葉を話せない犬は痛みで苦しんでいることも考えられます。
年齢を重ねるほどに歯周病にかかる確率も高まるため、できるだけ若い年齢から歯磨きケアでの予防が大切です。愛犬の歯周病を防ぎ健康をサポートするために、定期的に動物病院で受診することが大事です。
愛犬の歯周病に関して気になる点があれば早めに当院にご相談ください。
監修者 竹原獣医科医院 院長
2009年~2011年 日本小動物獣医師会 理事
2011年~2019年 川崎市獣医師会 会長
2019年~ 川崎市獣医師会 顧問
所属:比較眼科学会
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