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猫の慢性腎臓病 早期発見と早期治療が愛猫を守るカギ2025.03.07

腎臓病、特に慢性腎臓病(CKD)は、猫にとっての代表的な病気のひとつ。

この病名を聞いたことのある猫の飼い主様はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?

高齢になると、特に発症するリスクが高くなる「猫にとって身近な病気」です。

 「おしっこの量が増えたかも…」「水を飲む回数が増えた」という“ふだんとの違い”を発見したら、すでに腎臓病が進んできているかもしれません。

病気をいち早く特定し、愛猫の負担を軽減するためには、この時点もしくはそれよりも先に、獣医師に相談する必要があります。

今回は2回にわたり、猫の腎臓病について詳しく解説します。1回目の今回は、早期発見と早期治療のために関する初期症状の具体例や注意点、飼い主ができるサポート方法について詳しく解説します。

愛猫との暮らしをより快適に保つため、ぜひ最後までご覧ください。

猫の慢性腎臓病のメカニズムと最新の知見「AIM」とは?

慢性腎臓病は猫にとって発症リスクの高い、とても身近な病気です。慢性腎臓病についてあらかじめ知っておくことがとても重要です。

「急性」と「慢性」

腎不全とは腎臓の機能が低下した状態ですが、それには“急性”と“慢性”の2種類があります。突然腎臓に大きな負荷がかかって発症する「急性腎障害(AKI)」は、尿管結石、尿道閉塞、腎盂腎炎や中毒などが原因で発症し、それによって著しく腎機能が低下すると「急性腎不全」となります。

一方ゆっくりと進行する慢性腎臓病により、少しずつ腎臓がダメージをうけていくことで、最終的に腎機能が著しく低下したものを「慢性腎不全」といいます。どちらも末期になると、尿毒症による様々な合併症を発症したり、尿が作られなくなる乏尿という状態になったりします。

慢性腎不全は進行していく病気

今回お伝えしたいのは、後者の慢性腎臓病です。

初期症状が分かりづらく、長期間にわたって少しずつ進行していくのが特徴で、特に猫においてはその多くが発症する病気です。

病状の進行度合いは、IRISという国際獣医腎臓病研究グループによりステージ1~4の4段階に分けられますが、初期であるステージ1では症状を示さないことが多く、検査でも診断が難しいため、多くが潜在的に進行していきます。

例えば、健康診断の血液検査でBUN(尿素窒素)やCRE(クレアチニン)の数値が上昇した頃には、腎臓の細胞の70%以上が障害を受けていると言われています。そのため、気づかないうちに重症化するケースも少なくないのです。

どうして猫に腎臓病が多いのか?

犬やほかの動物よりも、猫の腎臓病は発症する確率が高いです。

特に、高齢になると相当な確率で罹患する可能性があると言われています。

どうして猫が腎臓病になりやすいのか、実ははっきりしたことは分かっていません。原因として以前からいわれているのは、猫の祖先はもともと砂漠地帯に生息していたからではないかということです。その中で近年はさらに詳しいメカニズムが解明されています。

イエネコの起源は中東の砂漠地帯に生息するリビアヤマネコとわかっています。水がない砂漠という環境で生き抜くため、少ない水分と少ない尿量で体調を保っている体質を備えましたが、そのシステムが腎臓に大きな負荷を与えていると考えられています。

腎臓には、体内の老廃物を尿として排出するためのろ過装置とも言うべき、“ネフロン”という器官があります。

ネフロンは、人間は200万個ほど、犬は80万個ほどと多い一方で、猫は40万個と少ない数です。もともと猫はネフロンの数が少ないのにも関わらず、加齢などでネフロンの機能が失われていくごとに「正常に作用できるネフロン」の負担が高くなります。

そんな背景から、猫は腎臓病が多いと考えられています。また最新の知見では、「AIM」という物質が腎臓病の発生に大きくかかわっていることが分かっています。

最新研究「AIM(エーアイエム)」とは?

近年では、より研究が進み、腎臓で生じる老廃物が腎臓を傷める原因となること、そしてそれを掃除処理して腎臓を守る機構を、動物が元来備えているということが分かりました。

そのカギとなるものが、「AIM」というタンパク質です。これは、元東京大学大学院医学系研究科教授であり、現在一般社団法人AIM医学研究所の所長である宮崎徹先生が発見されたものです。AIMタンパクは、体内のあらゆる場所から日々生じる老廃物(ゴミのようなもので、これを放置すると細胞や組織にダメージを与える)に印をつける役割を果たします。

AIMによりマークされたゴミは、マクロファージという貪食細胞(不要なものを食べて処理する細胞)によって認識され、取り除かれるのです。

腎臓でも同じことが起こっており、日々ゴミが発生する腎臓では、AIMタンパクとマクロファージの働きによって、腎臓の細胞たちが守られているということが見出されました。

しかし、猫においてはそのAIMタンパク作用機構が働きづらく、ゴミ処理が追い付かずに腎臓の組織が痛んでしまうことも解明されました。AIMを用いた腎臓病の治療法も研究されており、世界中の愛猫家に、最も注目、期待される研究の1つと言えるでしょう。AIMに関しては次回の記事にも記載する予定です。

AIMについて詳しく知りたい方は、宮崎先生著の『猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(時事通信社)を読んでみることをお勧めします。

猫の慢性腎臓病の早期発見のために

初期症状とはどんなものか?

身体の老廃物や毒素の排泄、体内水分のバランスを保つなど、腎臓は生きていくうえで非常に大切な臓器です。

多くの慢性腎臓病では、体重減少、多飲多尿、脱水、食欲低下、嘔吐などが一般的に見られます。時には嘔吐、高血圧による眼底出血、貧血など多岐の症状が見られることもあり、重篤な症状があれば気が付きますが、多くはその時には既に腎臓病は進行してしまっています。

早期発見のためにすべきこと①家でのチェック

早期発見のためにすべきことの1つ目として、「初期症状に意識してチェックすること」はとても重要です。食欲低下や嘔吐には気づく飼い主様が多いですが、それ以外の症状にも注意して見ておくと、早期発見に役立つでしょう。

特に体重減少、飲水量、尿量のチェックは、比較的簡単に実施できます。以下の事を参考に、中年齢以降の猫ちゃんの飼い主様は特に、実施されることをお勧めします。

・自宅で月に1回体重を測定する

 キャリーなどに入れて、体重計に乗せることで簡単に測定できます。より詳しく測定したい場合は、ヒト新生児用体重計を購入するとよいでしょう。

・飲水量を量る

   時々でも良いので、腎臓病になる前から1日の飲水量を量ってみましょう。お皿にそそぐ水の量を量り、残った量を差し引くことで計算できます。水道やシンクから水を飲む猫ちゃんは難しいかもしれません。

・尿の状態を把握する

   猫はもともと尿量の少ない動物です。トイレを掃除する際に、猫砂などが重くなったと感じたら、尿量が増えたのかもしれません。また、尿の色を見る機会があればチェックしてみてください。薄黄色であれば正常の可能性も高いですが、透明なのであれば「希釈尿」という多尿を示す状態となっている可能性があります。(ただし腎臓に問題がなくても、その時々で尿色は変化しますので、日常的に見ておくとよいでしょう。)

早期発見のためにすべきこと②積極的な腎臓検診

2つ目は、「積極的に健診を受けること。そしてその際に、腎臓病をなるべく早期に検知できる項目を測ってもらうこと」です。

一般的な健診として、身体検査に加え血液検査があるかと思います。特に春は血液検査の健康診断キャンペーンを推進している病院が多くあります。そういったものを利用して、定期的に健康診断を受けると良いでしょう。

しかし、BUN(尿素窒素)、CRE(クレアチニン)、リンだけでは慢性腎臓病を早期診断することは難しく、より多くの項目を測定することが推奨されます。

特に次に示す項目は、当院で慢性腎臓病のスクリーニング検査として実施している項目となります。これらの検査を実施した方が良いのかどうか、担当の先生に相談してみると良いかもしれません。

〈当院の主な腎臓の追加検査項目〉

・SDMA

・SAA(※猫の炎症マーカですので、腎臓の項目ではありません。)

・シスタチンC(犬)

・FGF-23(リンの上昇を認めない初期から上昇します。)

・UPC比(尿蛋白クレアチニン比)

・レントゲン・エコー検査(若齢でも見られる腎嚢胞や腎結石などの有無を確認します。)

猫の腎臓機能を守るため~早期対策を積極的に行うメリットとは?

年齢とともに腎臓機能は悪くはなりますが、「年のせいだから仕方がない」と諦めずに早期対策をすることで、いくつものメリットがあります。

メリット①:腎臓病の進行を遅らせることができる

腎臓は一般的に「治らない臓器」と言われています。腎臓の組織が一度大きなダメージを受けて線維化という状態になってしまうと、そこが治って正常な組織に置き換わることはなく、残りの健常な部分で腎機能をなんとか補うようになります。

慢性心臓病では、少しずつ腎臓組織が痛み、それを補って、また少し痛んでを繰り返していくことで、最終的には腎不全へと進行していくのです。

そのため、正常な腎機能をいかに保護していくかということが重要です。腎臓のダメージを減らしたり、線維化を防いだりする治療を、少しでも早く実施するために、初期の状態でしっかりと診断してもらう必要があるでしょう。

メリット②:猫の寿命を伸ばす鍵になる

腎臓病の症状は、体重減少、食欲低下、嘔吐、脱水など、猫自体の体力や体調を長期間にわたって低下させていくものばかりです。

多くの猫が高齢になると腎臓病を発症することから、猫の寿命は腎臓病の進行状態によって決まると言っても過言ではありません。つまり、腎臓病の対策や治療を早期から始めることで、結果的に猫の寿命を延ばすことにつながるのです。

メリット③:猫の日常生活の質を向上してあげられる

腎臓病を早期発見・治療することは、進行予防につながり、寿命を延ばすことが期待されますが、それだけではありません。猫がいかに快適に生活するか…いわゆる健康寿命や、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)というのは、人と同様、動物でもとても重要です。

腎臓病は、食欲不振や嘔吐、脱水や悪液質など、様々な合併症を引き起こしますが、猫はそれを本能的に隠す習性があります。これらをしっかりと把握し、進行予防や治療をしてあげることは、腎臓が弱いという宿命をおった猫に対する大きな愛情と言えるでしょう。

当院では、慢性腎臓病が進行する前に、早期診断のための検査をお勧めしています。

当院では、中年齢の猫ちゃんには特に積極的に、慢性腎臓病早期発見のための検査を実施しております。また、慢性腎臓病にかかわる薬剤やサプリメントなどの臨床試験等を数多く経験しています。

早期発見、進行予防、IRISステージ3~4の維持治療…様々な段階において、その子にとって最良の治療は何かを、飼い主様と見いだせたら幸いです。

次回、慢性腎臓病の2回目の記事では、猫の慢性腎臓病の治療方法について具体的に解説する予定です。



監修者

竹原 秀行

竹原獣医科院 院長

竹原 秀行
2019年~ 川崎市獣医師会 顧問
2011年~2019年 川崎市獣医師会 会長
2009年~2011年 日本小動物獣医師会 理事

所属:比較眼科学会