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犬や猫が嘔吐したら病院に行くべき?嘔吐の種類や違い、検査の重要性について解説します2024.12.03

さっきまで元気だった犬や猫がいきなり嘔吐したとき、どうして吐いたか分からないと不安ですよね。

「病院に連れていくべき?でももう元気になったから大丈夫かな…」と嘔吐時の受診については飼主様も迷うケースが多いのではないでしょうか。

犬や猫の嘔吐には“受診すべき嘔吐”や“様子見でも大丈夫”なものがあります。 今回は、犬・猫の嘔吐の種類と違い、嘔吐を予防する方法など知っておきたいポイントを詳しくまとめてみました。

犬と猫の嘔吐の種類と原因を知ろう

まずは、犬や猫の吐く種類や違いなどを見ていきましょう。

犬と猫は、人間よりも嘔吐しやすい

人間もさまざまな原因で嘔吐をすることがあります。でも、嘔吐をすると「体力を消耗した」と感じる方が多いのではないでしょうか。2本足の人間にとって食道は垂直方向で“吐く”ためには体を横に向けるなどエネルギーが必要なため、嘔吐はとても疲れます。

一方、犬や猫はそもそも4本脚歩行ができるため、体も基本的には横向きです。体の構造が“吐き出しやすい”ことから、犬や猫にとって嘔吐は珍しいことではありません。

また、犬や猫の辿ってきた歴史からも「吐きやすい動物」であることが分かっています。

犬猫にとってはそれほど難しいことではないのです。

例えば、犬と共通の祖先をもつオオカミでは、飲み込んだ獲物を吐き出して子供に与えていますし、犬はその祖先からの習性で、口に入れた物が「これは自分にとって害がある」という直感で、口から出すこともあります。

猫はグルーミングにより常に毛玉を飲み込んでいることから、定期的に毛玉を吐く習性があります。また野生下の犬猫の仲間は、劣化したものを食べることがよくあり、体が“食べてはいけないもの”と判断して吐くこともあるのです。

そういった背景も犬や猫の嘔吐のしやすさに繋がっていると考えられています。

犬と猫の吐き方の種類は2つある

犬や猫の“吐く”には、実は2つのタイプがあります。

1つめが胃腸内で消化が進んでいた飲食物が逆流して口から吐くタイプで、一般的な「嘔吐」です。いったん胃や腸に入ったものが内臓の疾患や危険な物質と認識し、体の防衛反応により吐き出します。

2つめが「吐出」と言われるタイプです。

こちらは、食道から胃腸に届く前のものが逆流して口から出てしまうことを指します。

「嘔吐」「吐出」の主な違い

それでは、嘔吐と吐出はどのような違いがあるのでしょうか。

違い①:胃の中に入ったかどうか

嘔吐はいったん胃のなかに入り、消化が進行中の状態の内容物が吐き出されます。

一方、吐出は胃腸に到達する前に出てくるため「未消化」です。

違い②:前兆の有無

嘔吐をする犬や猫には、いくつかの前兆が見られます。

口の周りをペロペロ舐めたり、よだれを垂らしたり、何となく落ち着かない様子を見せます。吐き気をもよおし、お腹が波打つような動作もあります。 対して、吐出には前兆がありません。「オエッ、オエッ」という予備動作の無い、いきなりの吐き方で、未消化の食渣や、粘性の透明な多量の液体を吐く場合が多いです。

違い③:吐出物に対する、犬・猫の反応

嘔吐をした場合、犬や猫は口から出てきたものを本能的に“異物”と感じますから、再び食べようとはしないでしょう。

一方、吐出の場合は未消化です。早食いの最中に“むせた”ために口から出すこともあり、それを再び食べることもあります。

嘔吐の原因とは?

日常的に起こる一過性の嘔吐の場合、

・いつもよりもフードの量が多かった
・劣化したフードを食べてしまった
・ガツガツと早食いをしていた
・自動車で長時間乗って車酔いした
・つい最近飼い始めたばかり
・空腹時間がいつもより長い時に吐いた
・毛玉を吐いた(特に長毛種の猫)

など、「なぜ吐いたか」という原因が比較的分かりやすいかもしれません。

しかし、これらの心当たりがない場合、病気が原因で嘔吐している可能性があります。犬猫において嘔吐の原因となる病気は、下痢同様に様々です。

・ウイルス、細菌、寄生虫などによる感染(特に仔犬仔猫は要注意)
・異物、毒物の誤食(特に1歳未満の若い犬猫、1歳以上では、過去に誤食歴のある場合)
・胃腸炎(原因は様々)
・腫瘍(胃がん、消化器型リンパ腫、小腸がんなど)
・膵炎(急性、慢性)
・肝炎・胆管炎
・胃拡張・胃拡張捻転症候群(実際には吐きたくても吐けない場合が多い)
・ホルモン疾患(アジソン病、甲状腺機能亢進症など)
・腎疾患(急性・慢性腎不全、尿路閉塞など)
・便秘(特に猫の巨大結腸症) など

吐出の原因とは?

吐出の場合は、早食い傾向にある犬や猫がよく見せる行動です。

短期集中でフードを口の中に押し込めるため、食道内でそれが滞ってしまうことも。それが吐出の原因となる可能性があります。

しかし、食べた後しばらくたってから吐出する場合や、日常的に吐出を繰り返す場合は注意が必要です。

本来食道は食べ物が通過するほっそりとしたチューブ状の器官ですが、食道が狭くなり、食べ物が通過できなくなる「食道狭窄」や、食道が膨れてしまいそこに食べ物や液体が溜まりこむ「巨大食道症」になると、吐出が症状として現れるのです。

これらの原因は、食道炎、食道狭窄、裂孔ヘルニアなどの食道-胃疾患、重症筋無力症などの神経疾患、ホルモン疾患、腫瘍、感染症、血管輪異常などがあげられますが、原因の特定に至らないケースも度々あります。

様子見でも大丈夫な嘔吐とは?

嘔吐の原因には、それほど心配しなくてもよいものもあれば、できるだけ早く受診したいものなどさまざまです。

たとえば、口から吐いたものを再び食べて、何事もなかったかのようにケロッとしていればあまり心配しなくてもいいでしょう。

また、お腹がすいて胃酸が増えた際に吐くケースもあります。この場合は固体ではなく、白や透明、あるいは黄色っぽい液体を吐出します。こちらも、少し様子を見ても大丈夫でしょう。

緊急性が高い嘔吐もある

病気が潜んでいるかもしれない、できるだけ早めに受診した方がいい嘔吐についてです。

・ぐったりして寝てばかりいる
・吐いたものに血(赤や茶色のもの)が混じっている
・大量に吐いている
・吐しゃ物に異物(ごはんではないもの)が混じっていた
・何度も何度も吐く
・息づかいが荒々しい(苦しそう)
・下痢も同時に起こっている
・吐く動作があるのに吐けない

様子見でよい嘔吐は吐いた後に“いつも通り”に元気なケースが多いのに対し、病気が潜んでいるときは下痢や震え、ぐったりなどをともない、「いつもと違う」といった様子を見せます。

緊急性が高い嘔吐の特徴として「嘔吐に加えて何かしらの異変がある」ことが挙げられます。

また、嘔吐回数にも注意が必要です。

食べすぎや早食いなどにともなって、“ときどき”の嘔吐なら様子見でいいケースもあります。ただ、1時間に1回、30分に1回…などを繰り返し、明らかに嘔吐回数が多いときは緊急性が高い可能性が考えられます。

急性嘔吐と慢性嘔吐とは何が違う?

急性嘔吐は急に起こり、嘔吐期間が短いものを指します。

食べすぎや車酔い、異物の飲み込みなど「嘔吐を起こした背景」に心当たりがあるケースも多いでしょう。その要因を取り除くと嘔吐がおさまるかもしれません。

たとえば、大食いが嘔吐の引き金になっている場合は「少し食事を減らす」「半日くらい食事を抜く」ことで嘔吐はおさまるでしょう。車酔いなども、車から降りてちょっと落ち着くことで改善できるケースが多いです。ただし、吐いている動物が一度に大量の水を飲むと、結局吐いてしまったり、胃拡張症になったりケースもあります(特に高齢犬)ので、様子を見ながら調整してあげてください。

一方、慢性嘔吐は数日以上、何度も吐く嘔吐のことです。

たとえ週に数回であってもそれが何カ月も続いている場合は病気の可能性が高く、嘔吐を治すには“病気を治す”しかありません。

また、一時的な嘔吐と違い、慢性嘔吐は長く「吐く」ことにより、脱水症状が起こっている可能性も高いです。 なお、猫で特に長毛種の場合は、毛玉関連の嘔吐が習慣的にみられる場合があり、毛玉に対するケアが必要でしょう。

嘔吐、吐出で病院に行く際の大切なポイント

嘔吐は犬猫においてよくみられる症状で、習慣的なものから病気によるものまで様々です。嘔吐は病院への来院数も多く、胃薬や吐き気止めの治療で改善します。しかし、それらの治療でも改善しない嘔吐症状の場合、何らかの病気が隠れている場合があり、中には緊急性の高いものもあります。

受診時のお願い

犬や猫の嘔吐で受診するとき、以下の情報をお伝え下さい。

・どのくらいの期間に何回くらい嘔吐をしたか
・嘔吐のきっかけになる動作をしていたか(嘔吐か吐出か)
・嘔吐をした後の様子はどうだったか
・吐しゃ物の色や量はどうだったのか
・嘔吐以外に異変が起こっていないか

など、飼主様の細かな情報が診断の有力な情報になってきます。

犬や猫が吐いている様子をスマホなどで撮影したものや、吐しゃ物の量や色味も写真撮影しておくと診断時にかなり役立ちます。

また普段から、異物を飲み込んだり、拾い食いしたりする癖がある場合は、必ず伝えましょう。

必要な検査をしてもらえる病院を受診しましょう

嘔吐は主に胃腸の問題で起こる事が多く、急性胃腸炎や胃潰瘍、慢性胃炎、胃拡張・捻転症候群などがそれにあたります。しかし、胃の問題だけではなく肝臓疾患、膵臓疾患、ホルモン疾患など、実に多くの病気で嘔吐は起こります。

当院では、動物の状態や嘔吐の状況をみて、検査なしに胃薬だけで様子を見る場合もありますが、動物の状態によっては検査を強くお勧めしています。

当院でよくみられる嘔吐を呈する病気の例(胃腸疾患以外)

・急性膵炎(特に犬)、慢性膵炎などの膵疾患
・急性肝炎、胆管肝炎(特に猫)、胆嚢疾患などの肝胆道系疾患
・急性・慢性腎不全、尿路閉塞などの腎泌尿器系疾患
・前庭障害や脳炎などの脳神経疾患
・子宮蓄膿症などの生殖器系疾患
・肥満や骨盤狭窄を伴う巨大結腸症(特に猫)

胃腸疾患以外でも嘔吐を症状とする病気はこれほどたくさんあるのです。これらは治療の必要性が高く、命に関わるものがほとんどです。

薬を飲んでも治まらない嘔吐でお困りの方へ

胃の精密検査を受けましょう

人では胃の検査としてこれだけ、バリウム造影検査や内視鏡検査が広く普及しているのにもかかわらず、動物では一般的とは言えません。
しかし、犬猫の方が嘔吐症状も多く、実際に胃の病気も多く見つかっています。血液検査でも異常がなく、吐き気止めや胃薬を飲んでいるのに、嘔吐が続いているという症状がありましたら、当院にご相談ください。

一般的な血液検査やレントゲン検査、エコー検査では分からない病気があります。
当院ではこれらに加えて、血液検査(ホルモン、膵分泌など)、造影レントゲン検査、内視鏡検査、試験開腹などを実施することで、嘔吐に対する診断治療を行っています。
特に内視鏡検査は、他の検査では検出不能な胃粘膜病変を診断するのに有効です。

<当院に来院した症例のケース>
・3週間前から食後の嘔吐がみられ、他院での検査にて異常が見られなかった猫
→内視鏡検査にて慢性胃炎と診断、試験開腹下での腸全層生検により、好酸球浸潤を伴う慢性回腸炎と診断され、投薬治療で良化した。

・他院にて胃内異物を摘出後も、慢性嘔吐が改善しない犬
 →内視鏡検査にて胃がんと診断された。

・慢性的な吐出、嘔吐を呈した高齢犬
→慢性胃拡張症候群と診断し、胃ろう(PEG)チューブを設置し、管理可能となった。

・嘔吐が一定期間みられた後に、吐出を伴うようになった猫
 →造影検査にて食道拡張症と診断。逆流性食道炎に起因したものとみられ、投薬治療で治癒した。

まとめ

犬や猫が急に嘔吐すると、飼主様もびっくりして動揺しますよね。とても心配かと思います。

今回ご紹介したように、「胃から内容物が出る嘔吐」「食道から逆流する吐出」といった2つの種類の吐き戻しがあり、比較的心配のないものから、重症のものもあります。頻繁に続くと動物たちにとっても苦痛ですし、原因を見極めて対策を練ることも大切。だからこそ、動物病院で専門的な観点で受診することも大事です。

嘔吐の原因は多岐にわたり、数日以上も続く“慢性嘔吐”になると大きな病気が隠されている可能性が高いので注意が必要です。

犬や猫は、体の構造的に吐くことは珍しくありませんが、だからといって軽視できるものでもありません。

食べすぎや空腹時間の長さ、ストレスが影響している場合は環境を改善できれば嘔吐が改善できるケースも多いです。病気が隠されている可能性があれば、早期に診断をして治療を進めていくことが重要となってきます。

「どうしたらいいか分からず不安なときは、まずは当院にご相談ください。 愛犬・愛猫の苦しみの原因を取り除けるように、さまざまな観点から診察・治療を進めてまいります。



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