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犬猫によく起こる「外耳炎」とは?外耳炎が起こる背景と治療法、発症を防ぐための“予防策”もあわせて解説します2024.08.09

言語でのコミュニケーションができないかわりに、犬猫には優れた聴覚や嗅覚があります。動物にとっての“耳”はとても大切ですが、構造的に耳の病気になりやすいと言われています。

そのひとつとして知られているのが「外耳炎」です。外耳炎はどんな犬猫も罹患する可能性がある身近な病気ですが、いったいどんな病気なのでしょうか。

今回は、犬猫が外耳炎になりやすい背景や外耳炎の症状、治療法や予防策など詳しくお話していきます。

犬猫の外耳炎の概要と症状

まずは、犬猫の外耳炎について概要や症状について見ていきましょう。

犬猫の外耳炎とは何?

犬猫の耳は、

・耳介から鼓膜までの「外耳」

・鼓膜の奥から内耳までの「中耳」

・さらにその奥の「内耳」

という構造になっています。

そのうち、耳介から奥へと続く“耳道”に起こる炎症を「外耳炎」と言います。

外耳炎になった犬猫が見せる症状とは?

外耳炎といっても原因は多岐にわたり、それによって症状も異なります。しかも、外耳炎になったばかりの初期の頃と、外耳炎が進行した頃では症状の重さも変わります。

次のようなさまざまな症状を見せるようになるでしょう。

【耳の痛み・かゆみ】

外耳炎になると耳の痛みやかゆみから

・耳を床に擦りつける

・脚で耳をかく

・頭をぶんぶんと頻繁に振る

・首を傾ける

など耳を気にする症状を見せるでしょう。

【耳垢が増える・耳からニオイがする】

耳垢が増えるので独特のニオイがします。ひどくなると、悪臭をともなった「耳漏(みみだれ)」が起こることもあります。

抱っこしたとき、遊んでいるときに耳からニオイがしたら、耳中をチェックしてみましょう。

【耳の腫れ・膿ができる】

耳の内部が炎症により「腫れ」「膿」が見られることがあります。

【耳の聞こえが悪くなる】

耳垢の増量や、腫れ、膿などで耳の通り道が塞がれると、犬猫は耳の聞こえが悪くなることがあります。

名前を呼んでも反応するのが遅い、大きな音が鳴っても気づかないようだなど、耳の聞こえが悪くなることも外耳炎の症状のひとつです。

進行するほどに症状も重くなる…

初期の頃は、耳の痛みやかゆみから気にする仕草が多く見られる傾向ですが、それに気づかずに時期が過ぎて重度になると「耳に触れると怒る・嫌がる」「耳の腫れ、膿で耳穴が塞がる」と明らかな異変が起こるでしょう。

外耳炎はどんな原因で起こる病気?

外耳炎の原因はさまざまです。

細菌などの感染によるものや、異物が入り込むなど物理的な刺激が原因になることもあります。ひとつずつ見ていきましょう。

細菌の感染やカビの繁殖

細菌感染やカビの繁殖が起こると、耳のなかの環境が悪化することで外耳炎を起こすことがあります。

特に耳垢がねっとりとした体質の子は、耳道内の湿度があがりやすく、夏季は特に悪化する場合があります。

寄生虫が引き起こす

ダニやノミといった寄生虫が外耳炎の原因になります。犬猫の耳に寄生するのは「耳ダニ(ミミヒゼンダニ)」と呼ばれ、わずか0.3㎜前後の極小のダニ。ほかの犬に移りやすいため、多頭飼いは注意が必要と言われています。

また、寄生虫ではありませんが、野外で生活している猫は、耳介を蚊に刺されていることがよくあります。

アレルギーが原因になることもある

アトピー性皮膚炎などアレルギー反応を持っている犬は、免疫が低下していることでさまざまな病気を引き起こしやすいです。

耳掃除の際に耳内が傷ついた

飼主様が自宅でやる際、「市販の綿棒」や「綿やガーゼを巻いた鉗子(かんし)」などを使う方もいるかもしれません。

獣医師などふだんから慣れた人でない場合、これらの道具での耳掃除が犬猫の耳内を傷つけることがあります。

犬猫の耳の奥に溜まった耳垢は、綿棒ではうまく取れません。

逆に、綿棒を押し込めてしまい、さらには鼓膜にまで到達して傷をつけることもあるので要注意です。

高温多湿の環境

雨降りの日や、お部屋がジメジメしている湿気が多い環境などが原因で外耳炎を起こすこともあります。

耳に異物が入ってしまった

お散歩中に何らかの異物(ゴミなど)が耳のなかに入るなど、物理的な刺激によって外耳炎が発症することもあります。

たとえば、

・自身から抜け落ちた毛が中にたまりこんでいる(特に立ち耳の場合)

・耳道の奥、鼓膜周囲に刺激のもととなる毛が生えている(耳の穴を覗くと見えるいわゆる「耳毛」のことではありません)

・草むらにはいって植物の小さな種が耳に入りこんだ

・シャンプー剤などが流れ込んだまま残っている

といった耳にとっての異物が原因となることもあるでしょう。

耳道のできものが原因の場合も

通常の外耳炎の治療を継続しても治らない原因の一つには、耳道にできものがある場合があります。

耳道には、耳垢を分泌する耳垢腺が沢山あり、そこが慢性的な炎症により腫れていて耳道がぼこぼこになっているケースがあります。

更にポリープ、腫瘍などが発生し問題となったり、それが耳道を塞いでしまうことで通気性を悪くしたりするケースも見受けられます。

外耳炎に罹患しやすい犬種・猫種

次に、外耳炎になりやすい品種と特徴についてです。

特に犬は、そもそも外耳炎になりやすい動物

犬の耳は人間の耳とは構造が違い、そもそも外耳炎になりやすい動物です。

動物の耳道は人の構造よりも長く、

・耳の入口から下に向かって垂直にのびる“垂直耳道”

・曲がった先から鼓膜まで水平に続く“水平耳道”

という「L字型」の耳になっています。

このL字の構造は通気性が悪く、特に垂れ耳の犬種は外耳炎を起こしやすい・悪化しやすいでしょう。

また、犬は耳の中に生えている毛や粘性のある耳垢も通気性を悪くすることから、外耳炎になりやすい理由と考えられています。

どんな犬種・猫種が外耳炎に罹患しやすい?

外耳炎は、すべての犬猫に見られる耳の病気です。

ただ、ひとくくりに“犬猫”といっても耳の形状と特徴が異なります。

一般的には、垂れ耳や短頭種、耳毛が多い、アレルギー性皮膚炎を起こしやすい、脂漏症になりやすいといった特徴を持つ次のような犬猫に外耳炎は多く見られる傾向です。

・アメリカン・コッカー・スパニエル

・ゴールデン・レトリバー

・ラブラドール・レトリーバー

・キャバリア

・シーズー

・ミニチュア・ダックスフント

・マルチーズ

・フレンチブルドッグ

・パグ

・柴犬

・スコティッシュフォールド

・アメリカンカール

・仔犬 仔猫 (耳ダニの場合)

・野外で生活している猫(耳ダニや蚊にさされの場合)

外耳炎の検査

外耳炎は犬猫共に一般的で、耳掃除と点耳薬のみで診察が終わることも多くありますが、検査が必要な場合もあります。

外耳炎でどんな検査をするのか、ひとつずつ説明していきます。

耳鏡検査と耳垢検査

耳鏡によって耳の内部を診察します。

「腫れがないか」「耳垢が溜まっていないか」のチェックです。その際に汚れの質や匂いもわかるでしょう。

耳の内部の耳垢の検査も行います。

外耳炎を引き起こしている原因を特定するために耳垢に細菌が入っていないかを見極めます。重度の細菌感染を伴う場合は、抗生物質に対する薬剤耐性(細菌が薬に対して抵抗性を持っていること)を持っている可能性もあるため、細菌培養検査、薬剤感受性検査を実施します。

マラセチアという酵母様真菌が関与していると考えられる場合は抗真菌薬、ダニが原因なら駆除薬を使うことになるでしょう。

レントゲン検査

外耳炎が進んで中耳炎になっているときや、鼓膜が傷ついているときなどはレントゲン検査を行うケースもあります。

耳道カメラによる検査

腫れた耳道や、できものが邪魔をしている場合等、耳鏡では観察しきれない部分は、カメラを挿入して鼓膜まで観察します。挿入しながら水流で洗浄することも可能です。

アレルギー検査、基礎疾患の検査

外耳炎は、アレルギーや他の基礎疾患が原因となっている場合があります。

根本原因を治療することで、外耳炎のコントロールにつながることが期待できるかもしれません。

外耳炎の治療

耳処置

耳に汚れが多い状態では、掃除をすることで耳垢を回収して検査したり、鼓膜を観察したりできるようになり、点耳薬の到達もスムーズになるでしょう。

しかし、刺激となり外耳炎を悪化させてしまうケースが良くあるため、自宅で飼い主様ご自身の判断で掃除をすることはお勧めできません。

また、耳毛が外耳炎を悪化させていると考えられる場合を除いて、耳毛を抜くことは必要ないとされています。

耳の洗浄

耳道の汚れがひどいときや、鼓膜付近に耳垢がある場合は、耳を洗浄します。

外耳炎には薬の治療が欠かせませんが、耳垢がたくさん詰まったようなひどく汚れている環境に薬を入れても、せっかくの効果が得られないからです。

汚れや異物を取り除いて綺麗な環境にしたうえで、正しく薬を用いていくことが大事です。

耳に垂らす“点耳薬”

点耳薬とは、耳に直接垂らして治療する薬です。

受診時は獣医師が行いますが、状況によっては処方薬としてご自宅で飼主様にやってもらうケースもあります。

自宅での点耳が難しい場合には、長く効果を発揮する点耳薬を、院内で滴下することも可能です。

いずれにしても、犬の耳内をしっかりと検査し、炎症をひかせるための処置が大事です。

内服薬

一般的な外耳炎では耳内に薬を入れる点耳薬を使うケースが多いですが、お口から飲んでもらう内服薬を処方されることもあります。

特に痛がって耳を触らせてくれないケースや、耳道が腫れていて点耳薬が奥まで到達しづらいケース、鼓膜が損傷していたり、鼓膜より奥に感染や炎症が及んでいたりするケースでは、内服薬の適応となります。

外科手術

内服薬や点耳薬では改善できないケースや、腫瘍などのできものができてしまったケースが、外科手術の適応となります。

重度の慢性外耳炎の場合、耳道の形を作っている耳道軟骨が硬く肥厚してしまうことがあります。そうなると軟骨は元の状態には戻りません。

異常となった耳道が狭窄を起こし、点耳薬や内服薬では治療できない状態の場合、物理的に耳道の中が解放されるように切開したり、耳介(入口)と鼓膜を残し、耳道自体を取り除いたりする方法などが選択されることがあります。

一般に耳道切開術、垂直耳道切除術、全耳道切除出などと呼ばれるものです。

当院ではコッカースパニエルに適応される例が多いです。

耳道内にできものが出来ているケースでは、これが摘出可能なものであれば、外科手術で完治する可能性があります。

根本原因の治療

外耳炎はアレルギーが関与している場合が多くあり、その程度は様々です。

耳以外の皮膚を痒がっているケースや、外耳炎を何度も繰り返しているケースでは、アレルギー自体の検査や治療が必要かもしれません。

予防策と定期的なケア

外耳炎は命を脅かすような病気ではありません。

ただ、犬猫は外耳炎を起こしやすく、気づかずに重度になると治療の難易度も高まっていきます。

何より、愛犬が耳のかゆみや痛みで日々の生活に辛さを抱えているのは、飼主様としては悲しいことですよね。

そこで大事なのは外耳炎を防ぐための予防策です。

耳を清潔に保つための耳掃除

耳のお手入れを定期的に行い、耳の環境を清潔に保つことが外耳炎の予防になります。

ただし、間違った方法で耳掃除をすると、逆に犬の耳を傷つけて外耳炎の原因となる可能性もありますし、耳垢を奥に押し入れてしまう可能性もあります。

耳垢は基本的に自然と外に排出されるため、少量であればお掃除は必要ありません。

特に、耳掃除に慣れていない犬猫の場合、注意が必要です。

飼主様が綿棒を耳の奥に入れて掃除をしようとしたところ、抵抗されて耳の中を傷つけてしまうことがあります。

耳の形、ふだんの生活スタイルによって一概には言えませんが、耳掃除はそんなに頻繁にやる必要はありません。

耳掃除のやりすぎで耳道や鼓膜を傷つけてしまっては大変です。犬の耳をチェックし、見た目で汚れがひどくなければ、「1か月に1回程度でも正しいやり方で行うこと」が重要です。

また、耳道の手前のひらひらした“耳介”の汚れは、飼主様が日頃お手入れしやすいでしょう。犬の耳は、とてもデリケートな為、犬用の耳洗浄剤をコットンで湿らせた後、奥まで指を入れず優しく拭いてあげます。

無理に掃除を行って逆効果となることもあります。

外耳炎になっている場合は、市販の耳クリーナーが悪影響を及ぼすこともあるため、早めに獣医師に相談するようにしましょう。

「耳を傷つけそうで怖い…」「しっかりお手入れをしてあげたい」「耳垢汚れがひどく、炎症を起こしているようだ」というときは、当院にご相談ください。

日常的に耳の状態を観察すること

耳を清潔に保てるように、飼主様ができる範囲で耳のお手入れをすることはとても大切なことです。

ただ、あくまでも「健康的な耳」の場合です。

・耳の奥まで汚れが蓄積している

・かゆみで頭を振る様子が見られる

・耳が聞こえにくくなっているようだ

・耳をこすりつける

・すでに炎症が起きて腫れてしまっている

と外耳炎らしき症状がある状況で、独自の耳掃除をやっても逆効果となります。

外耳炎を悪化させないように、しっかりと動物病院で検査と治療をしてもらうことが重要です。

例えば、ひとことで「犬猫の耳垢」と言っても、正常な耳垢もあれば、病的な耳垢もあります。

正常なのは「嫌な臭いがしない」「量がそれほど多くない」「両耳に少しだけある程度」という耳垢です。

逆に病的なのは、

・片方の耳に大量に耳垢がある

・黒やこげ茶、ドロドロの黄色の耳垢(ダニや細菌に感染している恐れあり)

といった耳垢です。

更に、耳の腫れや異臭が確認できるようなら、耳のなかでトラブルが起きているかもしれません。

症状を放置すると状態が悪化するため、普段から犬の耳の状態をチェックしましょう。

まとめ~動物病院にて定期的な診察を

犬の耳はL字状に曲がっているため、通気性が悪く、外耳炎になりやすいと言われています。

一度でも外耳炎になると再発することも多いため、“外耳炎の予防策”と“異変に早く気づくための日々の観察”、そして“外耳炎の早期発見・早期治療”が大切です。

外耳炎の予防策のひとつに耳のお手入れがありますが、「外耳炎の症状があるのに綿棒で耳垢を奥に押し込めてしまう」「嫌がるワンちゃんの耳掃除をしようとして耳道を傷つける」というリスクもあります。

それに、悪い耳垢(黒やこげ茶の異臭など)を見逃して無理に取ろうとした結果、逆に症状を悪くするかもしれません。 「脚で耳をかくような仕草をする」「よく頭を振っている」「抱っこすると耳のニオイが気になる」など、“もしかして外耳炎?”と思った際にはまずは当院にご相談ください。