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犬猫の耳血腫は耳が腫れる病気?耳の形が変わってしまう?症状や原因、キレイな形で治す方法などを解説します2024.07.31

犬や猫が足で耳を掻いている姿を見たことがある方も多いのではないでしょうか。
動物たちがよく見せる行動として見過ごしがちですが、突然耳がパンパンに腫れてしまう「耳血腫」という病気を発症する可能性があります。

人間の耳で言う“耳たぶ”にあたる薄い耳介という部分が膨らむように腫れる耳血腫。

今回は、犬や猫に起こる耳血腫という耳の病気について、原因や症状、治療方法などを詳しくお話していきます。

「耳血腫」とはどんな病気?

耳血腫とは、耳介が血液の貯留によって腫れる病気です。
耳の最も外側にある「耳介(じかい)」は、人間の耳たぶにあたります。軟骨に皮膚が覆われているだけの構造で、とても薄い部分です。

犬の耳の形は犬種によって異なり、耳が立っている「立ち耳の犬」、垂れている「垂れ耳の犬」がいます。
形こそ違いますが、耳が持つ役割・構造は同じです。猫は一部の品種を除いてほとんどが立ち耳です。

この耳介(耳たぶ)のなかには、細い血管がたくさんあります。
これらが、刺激によって破れることで内部に血液が溜まって“腫れる・膨れる”のが耳血腫です。よく触らないとわからない1㎝程度の膨れである場合から、耳介の端から端までがパンパンに膨れ上がってしまっている重度の状態まであります。

犬猫の耳血腫の原因と症状について

犬や猫の耳に起こる耳血腫について、発症する原因や症状について見ていきましょう。

耳血腫の考えられる原因とは?

原因①:外耳炎から耳血腫に… 

耳血腫は外耳炎が引き金となって起こることがあります。
耳ダニや細菌・真菌感染、アレルギー、アトピーなどにより引き起こされる「外耳炎」は主な症状が痒みです。

犬猫の場合、痒みが起こると「頭を振る」「耳を床に擦る」「脚で耳を引っ掻く」などのように、痒さをどうにかするために耳に刺激を加える行動をします。その際、皮膚の内部にある細かな血管が傷つき、血液の塊ができて腫れるのが耳血腫です。

仔犬、仔猫などの場合は特に耳ダニが原因となっていることが多いですし、外に出る猫の場合、耳介は頻繁に蚊に刺されやすいため、それによる炎症が原因となっている可能性もあります。

原因②:外傷が引き起こすこともある

犬が「転んだ・ぶつかった」などの衝撃で耳介にある軟骨が折れて出血して腫れることがあります。
その他、犬猫同士の喧嘩によって「噛まれた」「引っ掻かれた」と血種を作るケースも見られます。耳に外傷を負ったら早めに受診をすることをおすすめします。

原因③:中耳炎や内耳炎も原因のひとつ

犬猫の耳の構造は、
・耳の入口から鼓膜までの「外耳」
・鼓膜から奥の空間となる「中耳」
・中耳の先にある「内耳」
から構成されます。

中耳炎や内耳炎は、主に外耳炎が悪化して引き起こされます。
炎症が耳の内部で大きくなり、単に「耳の病気」だけにとどまらず、耳血腫をはじめ、脳や視覚、聴覚などの異常を引き起こすことも考えられます。

原因④:免疫が低下している可能性

免疫が下がるとさまざまな病気にかかる可能性も高まり、耳血腫になることもあります。

必ずしも免疫低下が耳血腫に繋がるとは言えませんが、複合的な理由が関与していると考えられています。
免疫が下がっているときは病気やケガをしやすく、治りにくい状態ですから注意しましょう。

耳血腫の具体的な症状について

耳血腫はいろいろな原因から起こる可能性がありますが、主な症状を見ていきましょう。

初期症状は耳を痒がる

耳血腫の症状は、耳が腫れる(膨れる)のが主なものです。耳血腫自体は突然発症するので、事前に予測することは難しいでしょう。

しかしほとんどの場合で、耳血腫を発症してしまう程の強い痒み行動が見られます。

耳血腫を発症したら、「痒い・痛い・熱を感じる・耳を触られるのを嫌がる」という不快な症状を示す場合が多いですが、平気な顔をしている犬猫もいます。

耳血腫の初期の頃に、飼い主さんが耳を丹念に触ってみることで、早期発見・治療でき、負担を大きく減らせるでしょう。

症状が進むと外見で異変が分かる

小さな範囲であっても、一度血液が溜まると、耳血腫は進行することが多いです。
頭を振る、耳を掻くなどするとさらに衝撃が加わるため、貯留量が増えていくことがほとんどです。
症状が進むと、耳は風船のようにひどく膨らんだような形状になり、重みが増し耳は垂れ気味になります。

耳が腫れたときに触ると「ぶよぶよしている・熱い」という変化が分かるでしょう。腫れがひどくなることは、犬にとっては痒みや痛みで大変つらい状況かもしれません。

治療しないとどうなるのか?

耳血腫になったことで命の危機に脅かされることは基本的にはありません。
しかし治療しないことは、犬猫を辛い状況にさらしてしまうことを意味しています。
自然治癒には時間を要し、耳はちぢれて変形した状態で硬くなってしまいます。

再発を繰り返すことがありますし、硬くちぢれた耳が原因で耳がより不衛生になり、外耳炎を悪化させてしまう可能性もあるのです。

外で生活している猫ちゃんの中には、耳が縮れてしまった猫ちゃんを見かけることがありますが、これは耳血腫のなれの果ての形と言えるでしょう。

耳血腫になりやすい犬はいるの?

耳血腫になりやすいのは「身体の大きな犬」「垂れ耳」「耳の内部に毛がある犬」などです。

体が大きければ耳介も大きくなり、頭をぶんぶんと振ったときの衝撃も強く、耳たぶに負荷がかかりやすいでしょう。

垂れ耳の犬の場合、通気性が悪くなりがちで、耳血腫の原因として考えられる「細菌の繁殖」も起こりやすい耳の構造になっています。
犬種で言うと、ビーグルやラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーなどが垂れ耳です。

また、犬種に限らず、暑くて耳の内部が群れやすい夏も耳血腫が起こる可能性が高まる傾向です。

犬猫の耳血腫の診断と治療法

耳血腫の診断方法や治療方法についてご紹介します。

耳血腫はどんな方法で診断するか

①視診と触診

耳血腫は、「液体によって膨れる」「重みで耳が垂れる」という病気のため、通常は視診および触診で診断がつく病気です。重度になると、明らかに耳たぶがパンパンになります。

耳血腫はほとんど「片耳」に起こるため、外見で判断しやすい病気と言えるかもしれません。

②穿刺検査

必要に応じて、耳の内部にどんな成分の液体が入っているかを検査で確認します。

③耳垢検査

外耳炎が原因となっている場合、耳垢の検査も実施されることが多いです。

耳血腫の治療方法について

耳血腫は比較的軽いうちに治療を始めるケースもあれば、重度になってから気づくケースもあるでしょう。
「軽度」「重度」では症状も大きく異なることから、ベストな治療方法も変わってきます。

耳血腫の初期の軽度な症状の場合は血腫も小さく、経過観察で自然に消えるのを待つケースもあります。
ただ、血腫が小さいときは発見しづらいもので、外科的な治療をともなう大きさになっていることがほとんどです。

次に、代表的な治療方法についてご紹介します。

注射器による液体の抜去

耳の血腫となったところ(膨れているところ)に直接注射針を刺し、内部の液体を吸引して除去する治療方法です。かなり細い注射針を使い、全身麻酔を使わずに処置できます。

この処置は犬の不快感を和らげられるものの、数日すると再び血腫が溜まってしまいます。

通常は、数日おきに何回かに分けて行う処置です。

また、再発を防ぐために包帯を巻いて圧迫させたり、数日後に再び液体が溜まれば再度注射針での処置をしたりとケースバイで治療を行っていくことになるでしょう。

また、
・ステロイド剤を注入する
・抗生剤を注入する
・インターフェロン剤を注入する
などの組み合わせによる治療が行われるケースもあります。

何度か通院を行い、状況に合わせた処置が行われることが一般的です。そうしているうちに、やがては溜まらなくなるか、外科処置が必要となるようになります。

皮膚の切開などによる手術

外科的な手術を行うのは、
・注射器での除去が難しい場合
・注射器の処置後の経過がよくない場合
・再発を繰り返してしまう場合
・耳の形を正常な状態にしたい場合(当院での手技の場合)
などです。

耳介の皮膚を切開・穴を開けて、貯留液を抜く方法があります。全身麻酔が必要な外科手術で、切開後に液を抜いた後、縫合します。

手術後、犬は違和感があって掻く可能性があるため、エリザベスカラーなどで触れないような対策も必要です。注射器を使う処置と比べると、再発しづらい傾向にあります。

内科的治療と、耳血腫の原因となる外耳炎の治療

耳介そのものへの治療に加え、薬剤の全身投与や、原因である外耳炎の治療も併用することが必要な場合が多いです。

細菌、カビなどが外耳炎を引き起こしている場合、抗生剤や耳の掃除といった治療も併せて選択されます。

当院が得意とする特殊な外科治療法

注射器によって液体を抜いて、薬を注入する治療は、ほとんどが最終的に耳は変形しちぢれてしまいます。

また、耳介を切開する外科手術を行っても、耳が変形し歪んでしまうことは、一般的です。
通常、炎症や外科侵襲が加わった組織は、治癒の過程で患部が硬くなったり、縮んだりします。
体の皮膚ならあまり目立ちませんが、耳となるとその形の変化がとても目立つことでしょう。

耳血腫は「治った」と判断されますが、外見が大きく変わるのはもちろん、耳の通気性を阻害したり耳垢が溜まりやすくなり、外耳炎を悪化させたりすることにもつながる可能性があります。そうした耳をもとの形に戻すことはできません。

当院では、「耳をキレイに治す耳血腫の治療」をモットーに、切開、縫合に工夫を加えることで、耳の形態維持に、良好な成績を得ています。

耳血腫の治療を開始する際には、どのような治療を選択し、それによってどんな結果が得られるのかを、しっかりとご説明します。通院頻度や、処置の方法、かかる費用など、何でもご相談ください。

当院では、立ち耳の猫でも、垂れ耳のビーグル犬でも、多くの動物たちが術後に見た目上違和感の少ない自然な耳で完治しています。

発症からある程度経過してしまうと、キレイに保持することは難しくなりますので、お早めにご相談下さい。

まとめ~「もしかして耳血腫?」と疑ったら放置せずに受診を…

症状が進行しているのに気づかずに放置してしまうと、耳血腫が重度の状態になります。
治療しないでいると、犬猫に苦痛を与えながら耳は変形していまい、原因の外耳炎などはますますひどくなっていくでしょう。

いったん形が変わった耳は、自然に元通りに戻ることはありません。
耳血腫の初期は見た目で分かりづらいですが、すでに外耳炎の症状が慢性化している場合がよくあります。

耳を痒がっている、痛がっているような様子に気づいたら、たかが外耳炎と放置せずに、耳血腫になる前に動物病院を受診することをおすすめします。
そして、もし耳血腫を疑う状態になってしまったら、すぐに受診し、できれば耳が元通りになるように治療してあげてください。