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【必見】犬の膝蓋骨脱臼とは?手術や治療法を紹介します。2023.11.15

獣医師と犬の写真

愛犬が軽やかに歩く姿を見ていると安心しますが、歩行しづらそうな様子を見ると心配ですよね。人間と同様に、犬にもさまざまな関節炎が起こります。

後ろ足に異常が起こっている場合、次第に歩き方への影響や骨の変形をもともなう「膝蓋骨脱臼」かもしれません。

膝蓋骨脱臼は、ひざの皿がずれて起こる関節疾患のひとつです。痛みがあまりないものから、足をつけなくなるものまでさまざまな症状があります。

膝蓋骨脱臼はどんな症状なのか、そして手術方法・治療方法にはどんなものがあるのかについて、お伝えしていきます。

犬の膝蓋骨脱臼「パテラ」とは?

膝蓋骨脱臼は、犬の関節疾患としてよく起こる病気で通称「パテラ」とも呼ばれています。膝蓋骨(しつがいこつ)と病名中にあるように“膝”の皿が脱臼する病気です。

どんな症状か?

膝蓋骨は「大腿骨(太ももの骨)」と「脛骨(すねの骨)」を繋ぐように覆っている筋肉「膝蓋靭帯」にあります。大腿骨のくぼみとなる「滑車溝」におさまっているのが正常な位置ですが、そこから外れることが“膝蓋骨脱臼”の症状です。

外側に外れることを外方脱臼、内側に外れることを内方脱臼と言いますが、膝蓋骨脱臼で受診する多くの犬が「内方脱臼」を発症しています。

膝蓋骨脱臼の症状は、病状の進行具合によって異なり、初期の頃はほとんど症状がないことも多いです。ただ、散歩や運動で骨に負荷がかかって症状が出現し、炎症・骨の変形を引き起こす可能性もあります。

膝蓋骨脱臼を発症している犬が見せる代表的な症状は、

  • スキップのような歩き方をする
  • 1本の脚が床に着けない(あげている)
  • スムーズに歩けない
  • 抱っこのときに「キャン」と鳴く
  • 散歩に行くのをいやがるようになった
  • 段差を上ろうとしない

などです。

初期の頃には犬も痛みがなく、これらの症状を見せずに、飼主様はなかなか気づけないかもしれません。ただ、上記のような症状があるときは膝蓋骨脱臼の可能性があるので獣医師に相談することをおすすめします。

膝蓋骨脱臼の進行度はグレードによって異なる

膝蓋骨脱臼は次のようなグレードごとに分類されて、軽症から重症まで症状はさまざまです。

【グレード1:指で押すと脱臼し、離すと元に戻る状態】

  • 膝蓋骨脱臼の初期段階で症状はほぼない
  • 何らかの弾みで外れると突然症状が現れることもある。

【グレード2:脱臼したり、元通りになったり不安定な状態】

  • 通常は日常生活を送れるが脱臼が繰り返され骨に負担
  • 膝蓋骨が脱臼しやすい状態だが元に戻すことも簡単
  • ただ、次第に骨の変形が起こる可能性がある
  • 脱臼すると後ろ足を床につけない

【グレード3:基本的に膝蓋骨が外れている状態】

  • 常に膝蓋骨が脱臼しているが指で元に戻せる状態
  • ただ、再び脱臼しやすい
  • 膝関節が曲がった状態で歩く

膝蓋骨脱臼はどんな原因か?

膝蓋骨脱臼が起こる主な原因は、「先天的なもの」と「後天的なもの」があります。

犬種の骨格や体型などが膝蓋骨脱臼を起こすことが先天的な原因による膝蓋骨脱臼です。特に、身体のサイズが小さい5㎏未満の小型犬は膝蓋骨脱臼を発症しやすく、成長にともなって骨の形成時に膝蓋骨脱臼の症状が見られるケースが多々あります。

また、後天的な理由から膝蓋骨脱臼を起こすケースは、膝に大きな力が加わって突然発症します。

どんな犬種に多いか?

膝蓋骨脱臼を起こしやすいのは特に小型犬です。チワワやトイプードル、ポメラニアン、ヨークシャーテリアといった小さな犬種は膝蓋骨脱臼がよく起こるので、注意しましょう。

また、交通事故などで何かに衝突した、高所から飛び降りて衝撃を受けた…というように、犬の身体に強い力が加わって膝蓋骨脱臼が起こるケースも珍しくありません。

手術は必要か?

前述したように、膝蓋骨脱臼にはグレード(進行具合)があります。膝蓋骨脱臼のグレードやその子の症状の出具合、年齢、状況などから総合的に手術の必要性を考えていくことが大事です。次に、手術をする場合の術式についてご紹介します。

手術の種類(術式)

膝蓋骨の手術は、主に「滑車形成術」と「脛骨粗面転移術」があります。

【滑車形成術】

膝蓋骨は、本来「滑車溝」という“くぼみ”におさまっている骨です。ただ、なかにはくぼみが浅く、膝蓋骨が脱臼しやすくなっている子もいます。そこで選択できるのが、浅めの滑車溝を切除して深くする滑車溝再建という術式です。深い滑車溝によって、膝蓋骨の脱臼を防ぐことができます。

【脛骨粗面転移術】

膝蓋骨につながる膝蓋靭帯は、脛(すね)の骨の脛骨粗面という部位に付着しています。本来、膝蓋骨ー膝蓋靭帯ー脛骨粗面は、一直線上にすべて正面を向いています。
しかし膝蓋骨内方脱臼の犬では、それらに異常な力が加わることで、内側にずれて変形してしまっています。
そこで手術により、脛骨粗面の位置を本来あるべき正面に移動させ、膝蓋骨、膝蓋靭帯を正面に修正し、脱臼しないように金属製インプラントにより固定します。

手術以外の治療法は?

手術をしないケースなら内科的な治療を行っていくことが大事です。

膝蓋骨脱臼という病名が分かっていても何もしないでいると病状がどんどん進行し、犬は身体に不自由を感じ、生活の質が劣ってしまいます。

内科的な治療は外科手術と違い、原因となる箇所に直接的なアプローチはできません。ただ、「犬の痛みを取り除く」「状況の悪化を防ぐ」といった目的を持った治療で、生活の質を落とさずに生活できるようにアプローチしていくことができます。

手術以外の主な治療方法には、

  • 関節炎を予防するサプリメントを飲ませる
  • 痛みが出たときに鎮痛剤を飲ませる
  • なるべく安静にさせる
  • 体重を管理して膝への負担を減らす
  • 転倒や事故を防げる環境改善を行う

といったものがあります。

予防法は?

犬の画像

膝関節に大きく負荷がかかると膝蓋骨脱臼が起こりやすいため、まずは体重の増加を防ぐ食生活・生活習慣を心がけましょう。すでに膝蓋骨脱臼を発症しているうえ、平均体重よりも増えて肥満気味となっている場合は、食事や運動を見直しながら減量するのも進行を予防できるポイントです。

また、外的要因で膝蓋骨脱臼を起こさないためには、散歩中に事故にあわないように配慮することや、家のなかでの事故にも注意しましょう。身体の小さな小型犬は、部屋のなかを駆け回ったりジャンプしたりと活動的に過ごすケースも多いでしょう。ただ、滑りやすい床で転倒して膝蓋骨脱臼を突然発症するリスクもあるので注意が必要です。

「ツルツルしたフローリング」という環境に加え、爪が伸びすぎている、肉球の毛が多いとケアが不足していることが要因となって膝蓋骨脱臼を引き起こすことも考えられます。

また、犬の歩行の様子がいつもと違うことに気づいた際に、早めに診療を受けるのも症状を悪化させない予防になります。

まとめ

遺伝的に膝蓋骨脱臼を発症しやすい犬種の場合、成長とともに少しずつ進行していきます。初期の頃は痛がることもなく、飼主様もあまり気づけません。

また、膝蓋骨脱臼は、症状によっては受診しても「指摘だけされて様子見」にされるケースも多いです。

膝蓋骨脱臼を発症している犬は、自然に膝をかばいながら動くようになります。次第に、足腰全体に負担がかかり、膝関節以外に周辺の骨や靭帯の病気が併発するリスクも高まります。

様子見は言い換えれば「無治療」のことで、犬の病気を悪化させることにもなるでしょう。当院では、症状に合わせながら、手術も早めに行えます。

竹原 秀行(竹原獣医科院 院長)

監修者 竹原獣医科医院 院長

2009年~2011年 日本小動物獣医師会 理事
2011年~2019年 川崎市獣医師会 会長
2019年~    川崎市獣医師会 顧問

所属:比較眼科学会



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