犬の会陰ヘルニアは、お尻周辺に膨らみができる病気です。2024.01.18
実は、この膨らみは皮膚の内部で内臓が飛び出ている状況。直腸が飛び出て便秘になったり、膀胱が飛び出て尿がしづらくなったりと、犬の身体に負担を抱えさせてしまうものです。
今回は、会陰ヘルニアの症状と「手術で治せるか」について詳しくお伝えしていきます。
会陰ヘルニアとは?
そもそも「ヘルニア」とは、身体内部の臓器が本来の正しい場所から飛び出ててしまう病気を総合的に言います。人間でも、椎間板ヘルニアなどがよく知られていますよね。
犬の会陰ヘルニアは、「会陰」と呼ばれる肛門の周辺に異常を引き起こす病気です。会陰部の筋肉が萎縮して“緩い”状態になることで、その隙間に臓器(膀胱や直腸、前立腺、脂肪など)が飛び出します。
会陰ヘルニアを引き起こすメカニズム
いくつもの筋肉が集まって内臓を支えている構造の肛門周辺。しかし、年齢や何らかの体力の衰えが筋肉を弱くし、薄くなっていきます。
それによって「筋肉が縮まる・薄くなる⇒皮膚の下で隙間ができる」という状態に。すると、その身近にある臓器が隙間を目がけて飛び出しやすくなるというメカニズムで起こります。
また、「吠える」という動作は腹圧が高まり、会陰ヘルニアを引き起こすリスクがあります。無駄吠え癖のある犬も会陰ヘルニアの発症率が高いです。
会陰ヘルニアになりやすいのは…?
会陰ヘルニアの直接的な引き金となる要因については、不明なところが多いです。ただ、男性ホルモンが会陰ヘルニアの発症に関与していると考えられ、ほとんどオスにしか起こらない症状です。
そのため、去勢手術をしておらず、比較的高齢な犬に多い傾向にあります。7歳を超えると“シニア犬”。去勢手術をしていないオス犬の場合は、シニア期を過ぎたら会陰ヘルニアの症状がないかチェックしておいた方がいいでしょう。
会陰ヘルニアの症状は?
次は、会陰ヘルニアの症状についてです。
肛門の周囲に膨らみがある
会陰ヘルニアの症状で気づきやすいのが肛門の横の膨らみです。
これは、肛門周辺の皮膚の下部にて、内部にある直腸や膀胱などの臓器が筋肉の隙間へと飛び出ていることによるものです。ただ、膨らみは症状の進行によって軽ければ気づきにくいケースもあります。
また、膨らみが影響して、いつもと尻尾の向きが変わってしまうこともあります。
しぶりが見られる
会陰ヘルニアの犬に「しぶり」が見られることがあります。しぶりとは、排便をする体勢で踏ん張るのに、なかなか便が出ないことです。
腸管が飛び出ると、排便はできるものの「いつもよりも相当な時間がかかる」「かなり頑張ったのに便が少量」なども会陰ヘルニアに見られる症状です。
高齢の犬は、そもそも足の筋力も衰えてくるため、しぶりによって排便時間が長くなることは体力的な負担にもなるでしょう。
排便時にいきんで痛そう
排便しようと踏ん張り過ぎると、血便が出るケースもあります。
力を入れずにするっと排便できればいいですが、力を入れても排便できないと犬は苦しいでしょう。会陰ヘルニアは、本来の位置からずれた状態で排便に時間がかかるだけでなく、痛みもともないます。
また、排便のたびにいきむため、直腸が歪んでくることも。早めに動物病院を受診してみることをおすすめします。
便秘でうんちが出なくなる
初期の頃は時間がかかっても何とか排便できますが、いずれ便秘になってうんちが出なくなります。
初期症状を見逃して放置すると、いずれ直腸の筋肉が切れるなど重症化することに。初期症状の頃は、排便に時間がかかる症状は見られますが、少量ながらも排便できるケースが多いです。
しかし、いずれ便秘になると、自力でうんちを出すこともできなくなる可能性が高まります。便が溜まると、肛門の周辺はさらに膨らんできます。
膀胱が逸脱すると排尿障害も
膀胱が出ている場合では、尿が出なくなると緊急性が高くなるので注意が必要です。
会陰ヘルニアの症状が進み膀胱が隙間に入り込むと、尿を出す際の正しいルートからずれてしまい、尿道閉塞を起こし排尿できなくなる可能性も。元気がなくなるばかりか、放置すると腎不全になり命にかかわるため早急に治療を行うことが求められます。
無症状なら様子見で良い?
会陰ヘルニアは、「何が隙間に飛び出たか」によって症状も異なります。たとえば、肛門周辺の脂肪が隙間に飛び出たとしても、症状はあまり見られないことが多いでしょう。
また、初期の会陰ヘルニアはあまり自覚症状もなく、犬はふだん普通に生活ができます。
そのため、飼主様としては「大丈夫そう」と自己判断しがちです。多くの場合、「排便ができなくなった」と悪化してから受診しています。
症状が軽そうに見えると、つい様子を見がちですが、実際には隙間に内臓脂肪が飛び出してしまっているため、自然に治癒できるような類の病気ではないのです。
あまり症状がなくても、治療を行わなければ進行してしまうケースが多いので、早めに受診することが大事です。
会陰ヘルニアの治療は?
会陰ヘルニアの症状によって治療方法も異なってきます。
排便しやすいように食事で改善するという方法もありますが、多くの場合、手術をして根本的な原因を取り除くことが効果的です。
まずは診断する
適切な治療を進めていくには、まずは状況を正しく確認することが大事です。問診や触診、そしてレントゲン検査やエコー検査により、「何の臓器が飛び出しているか」「機能低下している臓器がないか」などを確認します。
内科的治療で治るものか?
すでに排便できずに便が溜まっていれば、便を柔らかく出しやすくするなど、内科的な観点の処置が行われます。
ただ、便自体は出ても、そもそもの便秘の原因となっている会陰ヘルニアの症状の進行を止めたわけではありません。「会陰ヘルニアを治す」という根本的な治療は、やはり外科的治療しかないのです。
しかし、手術は全身麻酔のため、高齢犬はリスクを考えたうえでの決断となるでしょう。便を出やすくする内服液や、「便を掻き出す」という処置も行われることもあります。ただし、対症療法ですので、今後のリスクもしっかりと理解しておくことが大事です。
会陰ヘルニアの手術は可能か?
犬の会陰ヘルニアの根本的な解決は外科的治療です。
手術ができる年齢や体力であるのに手術を選ばない場合、いずれ症状が悪化していくこと、命にかかわる状態を引き起こす可能性があることを踏まえておきましょう。
会陰ヘルニアの手術は難易度が高い
会陰ヘルニア自体の手術の難易度は高く、再発が多い病気です。一般的には、大学病院のような大きなところで行う手術として考えられています。
そのため、根本的に治すなら外科手術が適応なのに、「様子見」という診断をされるケースも実は多いです。しかしそれでは根本的な原因を取り除けないばかりか、次第に症状が悪化して、より苦しい状態になる可能性があります。「様子見」は「何もしなくて良い」ということではないのです。
術式はさまざま
ヘルニアが起こっている周辺の隙間を自分の組織を使って塞ぐという方法や、人工物によりヘルニアを整復していく方法など、さまざまな術式があります。
ただ、前述したように、症状が軽く見える初期の頃は、犬自身もそれほど苦痛に見えず、「様子見」とされることも少なくありません。
しかし、この初期の頃こそが手術のタイミングとしては適切。手術によって、これ以上犬の会陰ヘルニアを致命的な症状に進行させないことが大事です。
当院では、会陰ヘルニアの手術の実績も多く、比較的簡単に手術が可能です。軽度から重度まで、会陰ヘルニアの状況を見極めながら対応ができます。
また、飼主様の多くは、手術時間の長さを心配されるかもしれません。当院の会陰ヘルニアの手術は、短い手術時間で犬への負担を極力減らすように配慮しています。
会陰ヘルニアの手術後は
手術後は入院し、犬の排便や排尿が回復できるか観察します。手術してから、およそ1週間後には抜糸です。
会陰ヘルニアの予防方法について
高齢のオス犬は会陰ヘルニアの発生率が高いです。
去勢手術で発症率を低くする
「高齢・未去勢・オス」という条件が重なると会陰ヘルニアが起こりやすいです。そこで、オスの犬は去勢手術で発症確率を下げることが予防になります。
去勢手術によって男性ホルモンをコントロールできれば、会陰ヘルニアの発症率は大きく減らせるでしょう。
去勢手術は、会陰ヘルニアだけでなく、前立腺疾患、精巣癌などオス特有の病気、マウンティングやマーキングなどの問題行動の予防・緩和にもつながります。高齢になってから会陰ヘルニアの症状で困ったことになるよりも、まずは若い時期に去勢手術をしてみるのはおすすめです。
また多くの場合、一度会陰ヘルニアを発症した犬は、再発防止のために去勢手術を同時に実施します。
吠え癖を直しておく
吠える動作は、肛門周辺にかなりの力が入るため、会陰ヘルニアの発症率を高めてしまいます。吠え癖を直すことは会陰ヘルニアの予防とも言えるでしょう。
初期症状で気づいてあげられるようにする
会陰ヘルニアになってしまっても、できるだけ初期に気づいてあげられるかが大切です。初期症状で飼主様が気づき、適切な対応ができれば、犬自身の苦しみや負担も減るでしょう。
特に、会陰ヘルニアは「便・尿」とも深く関係していますから、ふだんから排便や排尿の様子をよくチェックしてみてください。
踏ん張っているのに便がなかなか出ないようなら、会陰ヘルニアの可能性があります。
高齢の犬の場合、そもそも足の筋力も衰えてくるため、排便を踏ん張っている状況を年齢のせいだと軽んじてしまうケースもあるでしょう。しかし、その踏ん張りが会陰ヘルニアを悪化させてしまう可能性も。
また、「高齢・オス・未去勢」という条件が揃い、さらには排便が困難になっているときは受診をおすすめします。受診することで会陰ヘルニアかどうかが分かりますし、もし違う病気ならその病気の治療ができます。
まとめ
会陰ヘルニアの根本的な解決策は外科手術ですが、術後に再発するケースも多く、難易度は高めです。犬の様子が心配で受診したのに「まずは様子見を」と提案されるケースも多いです。
しかし「様子を見ましょう。」という言葉が、「このままでも大丈夫ですよ。」という意味ではありません。すでに会陰ヘルニアだと分かっているのに放置していると、今後ますます症状を悪化させてしまうかもしれません。
当院は、軽度、重度に関わらず、会陰ヘルニアの手術の対応が可能です。高齢の犬で「排便に時間がかかる」「うんちが細い」という症状があれば会陰ヘルニアhttps://takehara-vet.co.jp/blog/の可能性が高いので、ぜひとも受診をおすすめします。
また、治療や手術で不安なことがあれば、受診の際にお気軽にご相談ください。
監修者 竹原獣医科医院 院長
2009年~2011年 日本小動物獣医師会 理事
2011年~2019年 川崎市獣医師会 会長
2019年~ 川崎市獣医師会 顧問
所属:比較眼科学会
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