愛犬・愛猫の目のトラブル|角膜潰瘍の犬猫の角膜潰瘍とは?治らない原因や診断方法、家庭で可能な予防法まで解説2026.02.03

犬や猫に多い目のトラブルのひとつが「角膜潰瘍」です。角膜潰瘍の症状を抱えた犬や猫にとって、違和感や痛みに耐えながらの生活は辛いです。放置すると視力も悪くなるうえ、失明のリスクもあります。
また、愛犬や愛猫の角膜潰瘍に気づかずにいると慢性化し、角膜潰瘍が治らないこともあるため注意が必要です。初期の症状に気づき、適切な治療を早く行うことで愛犬や愛猫の目を守ることができます。
今回は、犬猫の角膜潰瘍について、治らない原因や主な症状、診断・治療法、そして家庭でできる予防法などを詳しく解説します。
角膜潰瘍について
はじめに、犬や猫の角膜潰瘍がどんな病気かについて、お伝えします。
犬猫に多い目のトラブル「角膜潰瘍」とは?
目の表面にある透明な膜「角膜」が傷ついた状態のことを角膜潰瘍といいます。
角膜は眼球の最も表面にある構造物で、外界に触れるため常に涙液で守られています。血管は存在せず神経が分布しており、光を通すため透明を保っています。犬の角膜は特に薄く、繊細で傷がつきやすいですが、小さな傷が表面だけについた場合は自然治癒できる可能性もあります。角膜は表層から、上皮、基底膜、実質、デスメ膜、内皮5層に分かれています。このうちどの層まで達する損傷なのかによっても、角膜潰瘍の重症度が異なります。
傷が深いと深刻な症状を引き起こして、最悪の場合は失明することもあります。角膜潰瘍が進行すると痛みをともなうため、そのサインを見逃さないことも早期発見のカギです。ただ、もともと動物たちは「痛さを隠す」という習性があり、飼主様が症状を見逃して放置してしまう可能性も考えられます。
「涙や目やにが増えた」
「目をショボショボさせている」
「左右の目の開き具合が違う」
角膜潰瘍の場合の多くが痛みを伴うため、これらのサインを発していることが多いです。飼主様が犬や猫の角膜潰瘍の原因や症状を知っておくことは、早期発見にもつながります。
角膜潰瘍を起こす要因とは?
犬、猫のどちらも、さまざまな原因で角膜は傷つきやすいです。
角膜潰瘍の主な原因、特に当院で来院の多いものを紹介します。
・外傷
散歩時の枝や枯草、ホコリなど
猫によるひっかき
タオルで拭いた際、布団にもぐりこんだ際の刺激
シャンプーによる刺激
・感染
細菌感染
免疫低下(免疫抑制治療、クッシング症候群、その他消耗性疾患など)
猫ヘルペスウイルス感染症による慢性角膜障害や角膜黒色壊死など
・角膜の乾燥
涙液量不足や涙液性状異常に関連する損傷(ドライアイ)
まばたきが不完全なことによる損傷(目の大きさ、顔面神経麻痺、神経腫瘍など)
・アレルギー症状による掻き行動による損傷
・形態異常
逆さまつげ
マズルの被毛やひげ(特に短頭種)
瞼の異常や、瞼のできものによる損傷
・その他
免疫関連疾患による角膜障害
ジストロフィーなどの沈着物に続発する障害
慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)
角膜潰瘍は治らないことがある?
角膜潰瘍は、原因や進行度によっては自然治癒が難しいことがあります。犬や猫の角膜はとてもデリケートです。傷が浅ければ点眼薬などで改善できますが、万が一悪化した場合は進行が速く、取り返しがつかなくなるケースがあります。また難治性の状態だと長期的な治療が必要となることもあります。自己判断はとても危険です。
動物病院で検査をして原因を特定したうえで、適切な治療を進めていくことが重症化させないカギとなります。
犬猫の治りづらい角膜潰瘍について
犬猫の角膜潰瘍の原因や状態は様々です。その中でも特に治りづらいものや、通常の治療だけは治癒しないものについてご紹介します。
いつもの目薬では改善しないケース
角膜に傷をつけてしまった場合、角膜潰瘍の治療として一般的には、抗生物質の点眼薬、ヒアルロン酸などの角膜保湿、保護のための点眼薬、エリザベスカラーなどこすり行動から防護するものが処方されるケースが多いです。しかし、これだけでは改善しないものも多くあり、いつもの傷だと勝手に判断して、過去に処方された点眼で様子を見ても全く改善しないことがあるので注意が必要です。
①自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)
角膜の最も表層にある角膜上皮のみがめくれるように剥がれる病気です。上皮がめくれることを「びらん」といい、はじめは小さなびらんのみですが、一度治ってきたように見えてもすぐに上皮がめくれてしまい、それを繰り返すうちに眼球の全体ほとんどがめくれてしまうほど進行することもあります。
上皮が角膜自体に接着できず、修復されてもすぐに剥がれてしまうことがメカニズムとされています。数か月にわたり再発を繰り返すのが普通で、点眼などの内科的治療での改善は困難です。当院では、角膜格子状切開術や、綿棒や器具による掻把術を行い、治療用バンテージコンタクトレンズや眼瞼縫合を実施して治療します。数か月経過した症例でも、これらの治療で多くが問題なく治癒します。
猫でも似たような経過をたどる症例が見られます。猫では上述の処置は不適応とされています。また原因として、猫ヘルペスウイルスの持続感染による影響が明らかとなっているため、抗ウイルス剤の治療などを実施しますが、短期間で完治させるが難しい場合が多いです。
いずれも、角膜のびらんが進行して拡がることはあっても、深く進行して角膜穿孔(穴が開くこと)を起こすリスクは低いです。
またSCCKEDsとは別ですが、角膜上皮ジストロフィーにり患しているケースでは、同様の繰り返すびらんを呈することがあります。同じように角膜の掻把やコンタクトレンズを用いて治療します。
②デスメ膜瘤(ですめまくりゅう)
角膜は「上皮」「基底膜」「実質」「デスメ膜」「内皮」で構成されていますが、デスメ膜瘤は角膜の深い部分の“デスメ膜”が膨らんで変形し、突出することが特徴です。簡単に説明すると、傷が深くなりすぎて、最後の薄皮一枚で何とか踏ん張っている状態です。最も奥にある内皮は丈夫な膜構造ではないため、最後の薄皮1枚としてデスメ膜が何とか頑張っています。しかし、目の中の圧に押されて耐えられなくなったデスメ膜は、逆に膨らんでこぶ状になります。これをデスメ膜瘤と言い、「角膜穿孔(目に穴が開くこと)」がいつ起きてもおかしくない非常に緊急的な状態です。
基本的には感染を伴った角膜潰瘍の治療がうまくいかないときや、毛や物にぶつかるなどして損傷を繰り返したとき、免疫が落ちているときなどに起こります。
損傷が深いため、犬は強い痛みで目を開けられず、涙や目やにで目の周りは汚れることがほとんどです。治療が遅れると内部に感染が広がったり、穿孔したりして、失明するリスクの高い状態です。自然治癒はほぼ期待できません。当院では、結膜フラップ手術が第一選択となります。
デスメ膜瘤に至ってはいないものの、そうなる危険性が高い深い角膜潰瘍では、眼脂の細菌培養検査を実施すると同時に、自己血清点眼などの投与を行います。
③眼瞼内反(がんけんないはん)
眼瞼内反とは、瞼が内側に巻き込むことをいいます。その状態になると、まつ毛や周囲の毛が角膜に触れて、慢性的に角膜を傷つけてしまいます。
生まれつき瞼の構造に異常がありそうなる場合もありますが、多くは短頭種に見られます。
しかし、アトピー性皮膚炎などにより慢性的に眼瞼炎を起こしている犬も要注意です。瞼が腫れることでまつ毛やまぶたが角膜に触れてしまう可能性があります。
当院では、眼瞼の構造に異常がある場合は、手術による内反の整復を行います。皮膚炎が原因の場合は、アトピーや皮膚炎の治療が主体となりますが、治療用バンテージコンタクトレンズにより痛みは瞬時に収まるでしょう。しかし、感染を伴う場合は使用できない点に注意が必要です。
猫の場合、犬ほど多くないものの、高齢猫や先天的なまぶたの異常が原因で発症することがあります。
④神経疾患
顔面神経や三叉神経に代表されるような「まばたきに係わる神経」に障害が起こると、動物は自然なまばたきができずに、反射的な防御ができなくなったり、目が乾燥したりします。涙液の分泌障害を伴うことも多く、神経麻痺になると多くの動物で角膜潰瘍を発症します。これは、角膜を乾燥から守っている仕組みが破綻している状況であり、KCS(犬でいうドライアイ)と似ています。目が傷ついたり、細菌が角膜表面に定着したりするリスクが高い状態といえるでしょう。
この状態は、点眼薬などにより角膜を保護し続けることと、根本の神経麻痺の原因を精査することが重要です。特発性(明確な原因がみつからない)であれば自然治癒することもありますが、腫瘍などが関連した神経障害であれば、永続的な角膜保護が必要となるでしょう。
当院でも、犬における神経原性の角膜障害は少なからず見られます。猫においては、上眼瞼に形成された悪性神経シュワン細胞腫による瞬目不全とみられる症例を経験しています。
⑤内分泌疾患
糖尿病やクッシング症候群などの内分泌疾患では、免疫低下などを背景に、角膜潰瘍が治癒しにくい場合があります。当院でも両目に角膜穿孔を起こしたクッシング症候群の症例を経験しています。角膜潰瘍だけではなく、基礎となる病気の治療が必須です。
症状

角膜潰瘍のサインを見逃さないことが大事です。
角膜潰瘍の主な症状は、
・目が開きづらくなる、片目を開けない(※両目に突然角膜潰瘍が起こることは少ない)
・目をショボショボさせる
・瞬きが増える
・目ヤニが普段よりも増える(黄色や緑色、粘性の目ヤニ)
・涙の量が増える
・光を嫌がる(目を細める仕草)
・前脚で目をこする
・目が赤い
などさまざまです。
症状がしばらく続くと角膜潰瘍が慢性化しているかもしれません。
また、症状が進行すると
・角膜が盛り上がる
・角膜が白く濁ってくる
・角膜に穴があく(角膜穿孔)
※穿孔した時は、穴が見えるというより、ひどく痛がって、大量の透明な涙のような液体(眼房水)で顔が濡れます。
など目に異常も起こり、さらには食欲の低下や元気消沈といった様子も見られるようになります。
角膜潰瘍は初期には分かりにくいことがあるので、飼主様が微妙な変化に気づけるかどうかが早期治療のカギです。
角膜潰瘍の診断方法とは?
角膜潰瘍は、動物病院にて専門的な検査により診断されます。関連する代表的な検査について見ていきましょう。
フルオレセイン染色検査
フルオレセインという染料を角膜に使い、潰瘍の有無を確認します。
スリットランプ検査
角膜の傷の深さや範囲を詳しく確認します。また、角膜を超えて目の内側に炎症や感染が及んでいないかどうかもチェックします。
シルマーティアテスト
専用の紙を挟み、濡れ具合により、涙の分泌量をチェックします。涙の量が少ないドライアイが角膜潰瘍の原因となっていることもあります。
角膜スワブ鏡検、眼脂細菌培養検査
角膜表面の細胞を顕微鏡で観察したり、眼脂を採取したりして、細菌感染の有無、抗生物質の効果などを判定します。
これらの検査を組み合わせることで、角膜潰瘍の原因や重症度を正確に把握し、適切な治療方針を立てることが可能です。早く正確に診断することで、治療期間の短縮や慢性化予防につながります。
角膜潰瘍の治療方法

軽度は主に内科治療が中心となる
角膜潰瘍が軽い症状の場合、点眼薬や抗生物質などによる治療で炎症や感染をおさえる可能性が高いです。通常の角膜潰瘍なら、点眼治療を適切に行えば改善が期待できます。
しかし、自己判断で市販の目薬を使うのは危険です。症状を悪化させ、もっと大変な状態になることもあるのです。
犬や猫のためにも、必ず獣医師の診断を受け、状況に合わせた適切な治療を進めることが大切です。
外科手術が必要な角膜潰瘍もある
犬や猫の角膜潰瘍の中には、内科治療だけでは治らないタイプの角膜潰瘍もあります。
たとえば、自発性慢性角膜上皮欠損症(SCCEDs)の場合、くっつきにくい角膜上皮を外科的に取り除き、特殊な処置により角膜を再生させる手術が行われることがあります。
また、デスメ膜瘤などの角膜潰瘍は、角膜移植や部分的な外科手術が選択されることも多いです。
コンタクトレンズの処置をすることも
角膜を保護する目的で、治療のために特殊なコンタクトレンズを装着することがあります。
早期治療で愛犬、愛猫の苦しみを防ぐ
角膜潰瘍は「症状を早く見つける・適切な治療を行う」ことで、慢性化や悪化を防げる目の病気です。愛犬や愛猫が前脚で目をこすっていたり、目をつむる様子を見せた場合、目のトラブルのサインかもしれません。
飼主様から見ても、愛犬や愛猫が頻繁に目を気にしている様子が感じられたら、早めに動物病院を受診することが重要です。
治療が長引く場合は再診が重要
軽い角膜潰瘍は、適切に治療をすれば、改善が期待できます。ただ、なかには通常の角膜潰瘍と診断され治療を続けているのに「なかなか治らない」とお悩みになられて受診される飼主様もいらっしゃいます。
セカンドオピニオンで来院される中には、内科治療では治りにくいタイプの自発性慢性角膜上皮欠損症(SCCEDs)だった…というケースも多くみられます。
犬や猫を見ていて「涙が多い」「目ヤニが増えた」「目を細めている」など、目の異常が疑われる場合は、早めに再診したり詳しく検査を受けることをおすすめします。
予防法やご家庭での注意点

次に角膜潰瘍を予防するため、あるいは悪化させないためにご家庭での注意点についてです。
日頃から犬・猫の目をチェックする
日ごろから、愛犬・愛猫の目を観察する習慣がとても大事です。まぶたやまつ毛の異常、目ヤニの量や色、涙の量など、いつもと違う点をチェックすることにより、角膜潰瘍の早期発見につながります。
ちょっとくらいと思って自己判断して様子見をしているうちに、もっと症状が重くなることも。気になる点は、小さなことでも早めに動物病院へ相談することが重要です。
目を清潔に保つ
目ヤニが増えたときは、清潔なガーゼやコットンなどで優しく拭き取りましょう。目の中まで強くこすると角膜が余計に傷つくので注意が必要です。
正しく治療を行う
目の病気の治療中、犬や猫は違和感から前足で目をこすろうとすることがあります。それにより症状が悪化したり、治療が長引くケースもあります。「目を触らせない・こすらせない」対策として、エリザベスカラーの着用が効果的です。
また、動物病院で点眼薬や内服薬を処方された場合は、指示通りに正しく使うことで、早期治癒につながります。
目を傷つけない生活環境を見直す
散歩に行くときは、枝や草が目に当たりやすい環境を避けるため、危険が少ない散歩ルートに変更すると安心です。
家庭内でも、注意すべき生活習慣があります。たとえば、紙・ファイル・プラスチック製品などを犬や猫の顔の近くで扱う際、それらの素材の端が目に当たって傷をつけるリスクがあるので注意しましょう。
先端がとがったおもちゃは、犬や猫が夢中になって遊んでいる最中に目に入りやすいため、購入時には安全性を確認することがポイントです。
また、愛犬や愛猫と遊ぶとき、抱っこするときには、人間の爪が目に入ってしまうこともあるので、日頃から気をつけましょう。
まとめ
犬や猫の角膜潰瘍についてお伝えしました。
軽い症状の角膜潰瘍は、点眼薬を正しく使うと早めに治ることも多いです。
でも、なかなか治らないとお悩みの飼主様もいらっしゃいます。急に進行して重症化したり、慢性化しているうちに数か月継続したりしてしまうこともあります。視力が低下するだけでなく、失明のリスクもあります。
犬や猫は痛みを我慢することも多く、飼主様が自己判断で様子を見るうち、治療の機会を逃すケースも少なくありません。
角膜潰瘍になると、犬や猫はさまざまなサインを見せます。ふだんから愛犬や愛猫の目をチェックしていると目のトラブルに気づきやすくなるので、気になる点があったらまずは動物病院で正確な診断を受けることが大事です。
大切な愛犬や愛猫の目を守るためにも、早期発見と適切な治療がとても大切な病気です。

竹原 秀行
竹原獣医科院 院長
所属:比較眼科学会
| 2019年~ | 川崎市獣医師会 | 顧問 |
| 2011年~2019年 | 川崎市獣医師会 | 会長 |
| 2009年~2011年 | 日本小動物獣医師会 | 理事 |




