犬の咳はなぜ起きる?その緊急性は?気になる原因と特徴を徹底解説2025.12.01

愛犬が咳をすると「風邪かな?それとも病気…?」と不安ですよね。
犬が咳をするのは、基本的に心配いらない一過性のケースや、早急に動物病院を受診すべき重度な病気が潜んでいるケースまでさまざまです。
今回は、犬の咳が出る原因や考えられる病気、危険なサイン、予防方法など、飼主様が知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
目次
犬の咳はなぜ出るの?
まずは、犬の咳が出る原因について見ていきましょう。
生理現象で出る咳
人間と同様に、犬も何らかの刺激を受けて一時的に咳き込むことがあります。健康な犬でも、生理現象による咳は見られるものです。
たとえば、
・興奮して吠えたあとに「コンッ」と咳をした
・急いで水を飲んだらむせて咳が出た
・散歩中にリードを引っ張ったら咳き込んだ
・寒い空気を吸い込むことによる寒冷刺激
・アレルゲン物質を吸引した
などは一時的なものと考えられます。
しばらくすると落ち着くケースも多く、必要以上に心配しなくても大丈夫でしょう。
誤食、誤飲で出る咳
異物を飲み込んだりそれにより口の中を傷つけたりすることで咳をすることもあります。
・おもちゃで遊んで破損した際の破片
・ペット用ベッドの綿
・ペットシーツを噛みちぎったときの一部
・人間の衣類のボタン
・ティッシュ
・丸飲みしたガムや硬いおやつ
これらの異物を飲み込むと、口の中に違和感が生じたり、口の中につかえたりすることがあり、それを取り除くために咳を出すことがあります。また大きなものは胃に到達する前に食道にひっかかることがあります。そうなった場合、犬はよだれをたらし、むせこむかもしれません。
嚥下が弱っている老犬や、食道拡張症の犬では、日常的に水や唾を誤嚥しやすく、少しのことで咳をするようになる場合があります。
これらの咳は、時に命にかかわる可能性もあるため、特に苦しそうな場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
咳か?くしゃみか?おえつか?
そもそも犬の咳はわかりづらいこともあります。私たちがイメージするような「コホッ」「コン、コン」といった咳はむしろ少なく、くしゃみのような「シュッ」「クフッ」というものや、気持ち悪そうに唾を吐き出すような「カーッ」「ガガッ」というものがよく見られます。鑑別が難しいこともありますので、咳を見分けるための特徴を簡単に挙げます。
・鼻先を左右に振るのはくしゃみであることが多い
・鼻先を動かさない、または上下に振るのは咳であることが多い
・咳の最後に少量の泡を嘔吐することもある
・吐き気の場合は食欲が落ちることが多いが、咳と食欲はあまり関連しないことも多い
・連続で出るのは、咳か逆くしゃみ(※)のことが多い
※逆くしゃみとは…「ブーブー」「フガフガ」という音とともに、連続的に息を鼻から
強く吸い込む生理的な現象 基本的には治療対象のものではない
病気が原因で出る咳

病気のサインとして咳が出ることも多いです。
特に、
・咳が長引いている
・頻繁に咳をしている
・呼吸が苦しそう
などは注意が必要な咳です。
咳が出る主な犬の病気と特徴
何らかの病気が潜んでいる咳について、代表的なものを紹介します。
ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)
「犬の風邪」ともいえる病気をケンネルコフと言います。ウイルスや細菌が気管支に感染し、主な症状は乾いた咳が続くことです。
“咳が出ること”を除くと、元気で食欲も普通のケースも多いです。ただし、放置すると肺炎になるリスクもあります。
特に生後6ヶ月未満の子犬に多く、保育施設やペットショップなど、集団生活で感染しやすい傾向です。免疫能力が落ちた時に感染しやすいため、自宅に迎えて1週間くらいに咳をしだしたら、ケンネルコフの可能性が高いです。症状が軽いうちはネブライザー治療のみでも良化しますので、早めの治療が大切です。
気管虚脱
気管が変形し、押し潰された状態になる病気です。本来丸い形状の気管が潰れるため、咳のほか、異常な呼吸音がすることもあります。
乾いた咳、ガーガーとガチョウの鳴き声のような音を発するのが特徴です。ひどければ呼吸困難になります。
この病気は、トイプードルやチワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなど小型の犬によく見られます。診断には吸気時と呼気時におけるレントゲン撮影が有用です。
気管支炎、肺炎
犬の気管支炎はよく見られ、感染症やアレルギー、免疫疾患などが原因で起こり、加齢による気道粘膜の繊毛運動低下、気道軟骨の石灰化や変形を関係して慢性化することも多い病気です。連続する咳が数か月以上続くこともあります。
肺炎は、ウイルス、細菌、真菌(カビ)による感染や免疫反応、誤嚥などにより肺に炎症が起こります。肺炎の主な症状は、「咳が出る」「呼吸が速い」「食欲不振」などですが、咳の出ない肺炎もあるため注意が必要です。特に、高齢の犬は重症化しやすい傾向にあります。
僧帽弁閉鎖不全症
心臓の弁が変形することで逆流が発生し、次第に心機能が低下していくいわゆる「心臓弁膜症」としてもっとも一般的なものが僧帽弁閉鎖不全症です。
遺伝的な要因も関係する病気で、チワワやミニチュアシュナウザー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルといった犬種で発症事例が多く見られます。
年齢とともに発症しやすく、特に中高齢の犬に多い病気です。
初期は症状が出ないこともありますが、病気が進行するにつれて「ガッ、カーッ」といった咳や、疲れやすくなるなどの変化が見られるようになります。中年齢の犬が、時々咳をするようになったケースでは、心臓病が発症してきている可能性があります。
散歩を嫌がるのも心臓病のひとつのサインです。重症化すると呼吸困難を引き起こす可能性もあるため、早期発見・早期治療が重要です。
その他の病気
・原発性肺腫瘍(肺がん)、転移性肺腫瘍、甲状腺癌などの腫瘍性疾患
・気道や咽喉頭周囲のポリープ病変
・肺高血圧症 など
犬の咳の音や様子から分かる“危険なサイン”とは?

犬の咳の原因はさまざまで、咳の音や様子からある程度の“危険なサイン”を読み取ることができます。軽めの咳に思えても、実は重症なこともあるため、犬の咳の様子をじっくり観察することがポイントです。
湿った咳
「ゴホゴホ」「ゼーゼー」といった湿った音の咳は、肺炎や心臓病の可能性があります。
特に注意したいのは、
・呼吸が苦しそう
・安静にしているのに呼吸が速い(※安静時呼吸数が30を大幅に超えている)
・ぐったりしていて意識もうろう
・就寝中にも咳をしている
・舌の色が紫(チアノーゼ)になっている
などです。
命を救うために、できるだけすぐに動物病院を受診することがポイントです。
※安静時呼吸数を測ることが大切です。
安静時呼吸数とは、犬が寝ているときや落ち着いて伏せているときなどに、胸の動きを
見て測る呼吸数です。1分間で30回未満程度は落ち着いた呼吸と言えるでしょう。1分間測
るのは難しいので、10秒ほど数えて、それにかける6して算出しましょう。
特に、僧帽弁閉鎖不全症の犬の飼い主様は、安静時呼吸数を測る習慣をつけておくと、安心
です。(一度、呼吸数が速くても、少したってからもう一度測定して、30回未満なのであれば、
肺水腫などの危険な状態の可能性は低いでしょう)
乾いた咳
「コンコン」「カッカッ」「ガーガー」といった乾いた咳は、気管虚脱やケンネルコフが疑われます。
特に、
・咳が止まらない
・咳と一緒に吐くような仕草が見られる
などは重症化のリスクがあるため、早期治療が重要です。
興奮や運動により咳が悪化する場合も、なるべく早く動物病院を受診しましょう。
緊急度が高い“危険な咳”とは?
以下のような咳や症状が見られる場合は、非常に危険な状態とも言えます。
・咳が長時間止まらず続いている
・咳と一緒に嘔吐している
・呼吸が速い状態が続いている(※安静時呼吸数)
・意識を失っている
・呼んでも無反応
・呼吸が浅くて速い
・元気がなく、ほどんど動かない
・舌や歯ぐきが紫色(チアノーゼ)になっている
迷わずに、すぐにでも動物病院を受診しましょう。
もしかして病気…?犬の長引く咳に潜む重大な疾患とは?年齢や犬種ごとの注意点
愛犬の咳が長引いたり止まらない場合、かなり心配ですよね。実は、犬の年齢や犬種によってもかかりやすい疾患もあり、知識として覚えておくことも大事です。
高齢犬
高齢犬の咳は、心臓病や気管支炎などのケースが多いです。
年齢を重ねると病気のリスクが高いため、咳が長引いているなら少しでも早く原因を見極めることも大切になってきます。
「年齢のせいかな…」「様子見をしよう」と軽く思わずに早めに検査しましょう。
子犬
免疫が低い子犬の時期は、感染症にかかりやすいです。子犬の咳は、“風邪”のケースが多いです。
特にペットショップや保護施設などで集団生活をしている場合は注意しましょう。ケンネルコフなどの吸器系の病気の可能性もあります。
小型犬
チワワなど、体重5キロに満たないような小型犬は、気道が細く気管虚脱を起こしやすい傾向です。運動や興奮時に「ガーガー」といった咳が出ていれば、気管虚脱の可能性もあるため注意が必要です。
咳が続くときにできること〜診察前の準備と動物病院での対応
愛犬の咳が続いたら、必要に応じて動物病院を受診することが大事です。そこで診察前にやっておきたいポイントと動物病院での検査内容などをお話していきます。
犬の咳の対処法
犬の咳が長引いていたら、まずは様子をよく観察しましょう。
・咳はいつから出始めたか
・どんなタイミングで咳をするのか(例:運動後、吠えた後、就寝中…など)
・咳の音の特徴
などをメモしておくと、診察時に非常に役立ちます。
また、愛犬が咳をしている様子をスマホで動画に撮っておくのもおすすめです。「乾いた咳?湿った咳?」「ガーガー?コンコン?」など言葉で伝えにくい咳の特徴を映像で確認してもらうことができ、診断に役立つので安心です。
動物病院での診断方法は?

動物病院では、飼主様からの問診が診察のスタートです。
咳の出始めた時期や頻度、ふだんの生活環境といった聞き取りにより、「診断のカギ」を見つけることができます。
そして、聴診で心音を確認したり、必要ならば胸部レントゲンや超音波(エコー)検査、血液検査なども行われます。
どんな治療をするの?
咳の原因によって治療内容が異なりますが、主に抗生物質、抗真菌剤、ステロイド、その他の消炎剤、気管支拡張剤、去痰剤、鎮咳薬(咳止め)、鎮静剤などを使用します。投与方法は吸入、内服、注射による治療が一般的で、必要に応じて点滴や酸素療法を併用します。
特にネブライザーは軽傷から重症例までに一般的で、霧状にした薬液を吸入します。
心臓病が原因で咳をしている場合は、その咳が緊急性のあるものかどうかによって治療が変わります。「心原性肺水腫(心機能が落ちたことで肺が浮腫んで水が溜まった状態)」を発症している場合は命の危機が迫っている状態であり、利尿剤や強心剤の治療が必要となります。
心拡大により気管支を刺激することによって生じるいわゆる一般的な「心臓病の咳」では、緊急性は低く、心臓病の治療を重点的に行っていくこととなります。さらには飼い主様による自宅でのケアも治療の一環として重要です。
咳の原因を見極めつつ、症状に合わせた適切な治療が必要になってきます。
毎日のケアで予防!咳を防ぐために飼い主ができること
愛犬の健康を守るためには家庭でできるケアも大切です。咳を予防する意味でも、飼主様ができる工夫がいくつかあるのでご紹介していきます。
部屋の乾燥に注意
部屋の湿度が低いと乾燥により咳が出やすくなります。
特に、冬になると暖房としてエアコンを使っているご家庭の場合、空気は乾燥しやすい傾向です。加湿器を使うのもおすすめですが、洗濯物を干すなども加湿に効果的です。室内の湿度は、40~60%前後を目途に保つといいでしょう。
リードやハーネスの見直し
散歩時、リードによって気管が圧迫されて咳をする犬もいます。特に小型犬や気管虚脱の傾向がある子は、リードが大きな負荷となっている可能性もあるため注意が必要です。
首に直接つける「リード」よりも、気管を刺激しづらい「ハーネス」の方が負担は少な目。咳の緩和が期待できます
室内の空気を清潔に保つ
ホコリやダニなどのハウスダストの汚れが咳に繋がっていることもあります。特に、犬にとって“床”は近い場所でもあるため、掃除不足でホコリが溜まっていれば「犬が吸い込みやすい状態」です。こまめな掃除や、空気清浄機の設置など、清潔な室内環境を目指しましょう。
ペットのベッド、寝具も適度に洗濯し、衛生面を保つことが大事です。
愛犬のいる空間でタバコを控える
タバコの煙に含まれた有害物質を吸い込み、犬が咳き込むことがあります。犬が過ごす空間では、喫煙を控えることをおすすめします。
また、喫煙者の毛髪や衣類にもたばこの有害物質は付着します。たとえ、犬のいない空間(外など)でタバコを吸っても、その“残留物”が咳に影響を与える可能性は少なからずあります。必要以上に過敏になることもありませんが、愛犬の健康を守るための工夫として、飼主様ができることを考えていくのもいいでしょう。
まとめ
「長引く咳が出ている」「普段の咳の質が変わった」「普段しなかったのに、急に咳をしだした」「呼吸も苦しそう」といった症状が続く場合は、すぐに動物病院を受診することが大切です。様子を見ようとしている間に症状が悪化し、重症化するケースも少なくありません。こうした危険なサインを見逃さないことが、愛犬の命を守る第一歩です。
また動物病院なら、愛犬の病気を早期に発見し、症状に合った適切な治療を早期に進められます。
毎日の暮らしのなか「あれ?」と愛犬の異変に気づけるのも、一番そばにいる飼主様だからこそ。気になるときは、愛犬の健康を守るためにもためらわずに受診することが何より重要です。飼主様さまの気づき、そして早めの対応は愛犬の元気にもつながります。

竹原 秀行
竹原獣医科院 院長
所属:比較眼科学会
| 2019年~ | 川崎市獣医師会 | 顧問 |
| 2011年~2019年 | 川崎市獣医師会 | 会長 |
| 2009年~2011年 | 日本小動物獣医師会 | 理事 |




